Investing in Asia 2021

アジアの景気回復を捉え、次の10年を形成するトレンドを捉える

ミン・ラン・タン(Min Lan Tan)
UBSウェルス・マネジメント
チーフ・インベストメント・オフィス(CIO)
アジア太平洋地域ヘッド

2002年にシンガポールにてストラテジストとしてUBSに入社。
アジア金融専門誌「アジアマネー」のアナリスト・ランキングで、2003年から2012年まで10年連続で在シンガポール・アナリスト1位。
2012年9月よりUBSインベストメント・バンクのマクロ・ストラテジスト・リサーチのグローバル・ヘッドを務める。
2013年8月、UBSウェルス・マネジメントCIOのアジア太平洋地域ヘッドに就任。
UBS以前はメルリンチに7年勤務し、シンガポール・アジア地域の株式ストラテジスト、東南アジア地域エコノミスト等を歴任。
それ以前には、シンガポール金融通貨庁(MAS)でシニアエコノミストを務める。
 

 

概要

公衆衛生危機の深刻さ、ロックダウン(都市封鎖)の広がり、株式市場の変動幅、そして未曾有の財政・金融政策支援と、いずれをとっても歴史に刻まれる2020年だったが、2021年には何が私たちを待ち構えているのだろうか。ワクチン開発は急ピッチで進められ、政策は超緩和的な状態が続き、地域経済も世界経済も回復に向かっている。

アジア(日本を除く)の国内総生産(GDP)成長率については、2020年の–2.1%から2021年には+8.3%*へと持ち直し、また株式市場については10%台半ばの上昇を予想している。中長期的観点から、4つのトレンドが注目される。経済・産業全般にわたるテクノジー変革、超低金利下での利回り追求の動き、中国のカーボン・ニュートラル方針がけん引するアジアのグリーン経済への移行、パンデミックが不動産市場に与える影響である。


 

2021年の見通しと投資への影響

新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われた2020年を乗り越え、あらゆる指標が2021年株式相場の上昇基調を示唆している。とりわけ経済の正常化をまだ織り込んでいない市場・セクターの上昇余地は大きいとみられる。東南アジアは景気後退から脱してプラス成長に向かいつつある。徐々に「正常な」生活に戻るにつれて、2020年に大きく低迷した景気敏感セクター・市場は上向く見通しだ。我々の予想では、アジア(日本を除く)の国内総生産(GDP)成長率は、2020年の–2.1%から+8.3%*へと急激に持ち直し、景気の回復により個人消費は勢いづき、経済活動も危機前の水準に戻ると見込んでいる。

2021年のアジアの株式市場は、全体としては10%台半ばの力強い上昇を予想している。実際、2021年は、営業利益率とキャッシュフローが大きく改善して株価が下支えされれば、「2017年」の再来となる可能性もある。アジアにとっての主要リスクである米中対立も、バイデン政権の誕生により緩和するかもしれない。

しかし、2020年で経験したように、確率は低いものの、発生すると重大な影響を及ぼす「テール・リスク」には引き続き備える必要がある。こうしたリスクを軽減するために、金(Gold)などを含む複数の資産クラスに分散投資を行うことを勧める。新型コロナワクチンの開発・普及で経済活動の正常化が想定よりも早まるとの見方が高まっていることから、景気の影響を受けやすい半導体やハードウエア・セクターが景気回復の波に乗り、東南アジアの金融株も出遅れから巻き返すものと我々はみている。また、長期トレンドは引き続き5G(第5世代通信)関連企業や中国のデジタル経済、ESGリーダー企業等の追い風になると考える。渡航が徐々に再開されれば、一部の東南アジアや日本の観光業が相場を後押しするものと予想する。

一方、中国はいち早く経済が正常化に向かっている。中国経済は多くの分野が新型コロナ危機から完全に回復しており、2021年にはさらなる成長が見込まれる。さらに、第14次五カ年計画では、テクノロジーの内製化や、芽生え始めた国内サステナブル投資市場の育成に向けた重点的な支援が打ち出されている。

主な投資アイデア

アジアの新しい景気サイクルが始動

  • アジア経済は、中国をけん引役として、景気回復が加速している。2021年のアジア地域(除く日本)のGDP成長率は8.3%*程度を予想する。企業収益の伸びが見込まれる一方、実質金利の低下で利回り追求の動きが強まるだろう。
  • 2021年の中国のGDP成長率は8.2%*を超える見込みである。中国の新たな成長戦略の4つの柱となるテクノロジーの内製化、都市化2.0、グリーン経済、そして「双循環戦略」により、投資拡大と個人消費の伸びが下支えられるだろう。

どこに投資するか

  • 東南アジア諸国連合(ASEAN)とインドについては、ワクチンの普及と渡航制限の緩和・解除が進むに従い、出遅れていた個人消費、観光、そしてサプライチェーン再構築への投資が上向くだろう。

アジア株式市場の次の上昇局面

• アジア(除く日本)企業の利益成長率見通しは、2020年の–1%に対して、2021年は+20%と予想する。

• 売り上げ・利益率の回復、フリーキャッシュフローの改善、幅広い成長により、アジア(除く日本)株式市場の2021年のリターンは10%台半ばと予想する。.

どこに投資するか

• アジアの景気に敏感なテクノロジー・サプライチェーンと東南アジア(ASEAN)の一部の出遅れセクターを勧める。また、5G(第5世代通信)、フィンテック、教育、ヘルスケアのような長期的に成長性が高い産業も引き続き推奨する。

アジアの魅力的な利回り追求資産 

  • 超低金利の環境下、2021年も利回り追求のニーズが引き続き強まると考える。しかし、過度なリスクを回避するため選別色を強めることは重要である。

どこに投資するか

  • 2021年のアジアのクレジット市場は、ハイイールド債の方が投資適格社債よりも魅力度が高まると考える。ハイイールド債は引き続き中国不動産債を、投資適格社債はBBB格債および永久債を推奨する。借り換えリスクが懸念されるB格債およびA格長期債は回避することを勧める。
  • 株式については、資本財、エネルギー、銀行セクターを推奨し、配当実績が不振な銘柄は回避したい。高配当および株価上昇が期待される質の高いクオリティ株の配当利回りは5%を予想する。 

菅新政権の政策課題  日本経済再生に向けて始動

  • 2021年は日本経済が堅調な回復をみせると考える。GDP成長率は+2.7%*(2020年予想:–5.2%)、企業の利益成長率は+40%(2020年予想:–7%)を予想する。これにより海外投資家は確信度を高め、日本の株式市場に回帰するとみている。
  • 2021年の日本株式市場は景気回復の恩恵を受けることができるとみている。

どこに投資するか

  • 観光の再開および東京オリンピックを前にして観光セクターの魅力度が高まると考える。また日本のデジタル化の動きをけん引する企業への投資を推奨する。
  • 世界の多くの主要国によってカーボン・ニュートラルが表明されたことから、サステナビリティの動きにかかわる日本の企業は、スマートモビリティ、再生可能エネルギー、省エネ技術への投資の恩恵を受けるものと考える。
 

アジアの変革の10年と投資アイデア

中長期的観点から、アジアの次の10年を形成するトレンドに注目

アジアのハイテクセクター

アジアのハイテクセクターの発展

中長期的に見据えると、次の10年に大きな影響を及ぼすとみられるいくつかのトレンドが明確に見て取れる。第1に、次の10年はテクノロジー変革を進めているセクターへの投資が鍵になると考える。自動化、eコマース、フィンテック、ヘルステック、サイバーセキュリティ、モノのインターネット(IoT)、5Gなどはいずれも、テクノロジーが進化し、ユーザが新技術に慣れるにしたがって、さらに普及していくものと見込まれる。

アジアは多くの分野で世界をけん引している。5Gの分野では中国がリードしており、5G普及は予定よりも早く進捗している。中国政府と国内ハイテク企業は、先発の優位性を獲得しつつある。日本の菅新政権も5Gの導入と官民双方のデジタル化に向けて意欲的に取り組んでいる。日中両国のハイテクセクターは成長が期待される。

アジアのハイテク企業は、前年の高水準にもかかわらず、2021年も利益成長率25%超と、過去平均を上回る力強い伸びを予想する。.

どこに投資するか

• 景気動向に敏感な半導体やハードウエア銘柄は、需給関係の好転を追い風に上昇が見込まれる。
• 2021年の先を見据えると、5G、フィンテック、スマートモビリティなどが、アジアのテクノロジー・セクターにおける次の主要テーマ.「Next big things (ザ・ネクスト・ビッグ・シング)」になるとみられる。

金利

金利

金利は当面の間、低水準を維持する見通し。大半の先進国では政策金利がすでにゼロ水準に達しており、新興国でもこの方向に向かっている。アジア太平洋地域でも伝統的な金融緩和政策が続いている。しかし、欧米に比べると、なお魅力的な金利を提供する国がアジアには存在する。

金利水準が最も低い国が台湾とタイで1~1.5%、中位に位置するのが中国の3.2%、そして最も高い国がインドとインドネシアで6~7%を維持している。世界的な利回り追求の動きと、アジアの利回りが相対的に高いことを踏まえると、アジアの高配当銘柄やハイイールド債への需要は高まるものと予想される。この相対的に高い利回りによって、アジア太平洋通貨の魅力度も高まると考える。

どこに投資するか

• アジアのハイイールド債のような高利回り資産を組み入れてリスクを取りながら、グリーンボンドのようなディフェンシブ資産や米国ハイイールド債を加えて分散を図る。

サステナブル投資

アジアのサステナブル投資

アジアでもサステナブル投資が芽生え始め、急速に成長しつつある。環境問題対策に関する中国の野心的な目標表明は、韓国および日本のカーボン・ニュートラル方針とも合わせて、市場には強力な追い風になると思われる。グリーン経済への移行とともに再生可能エネルギー関連事業者や電気自動車メーカーおよび電池のサプライチェーンなどは恩恵を受けるだろう。北アジアは世界の車載用電池サプライチェーンの一角を占めていることから、アジアは世界的に弾みがついているスマートモビリティの波に乗る上で、特に有利な立ち位置にいるといえる。 

中国の第14次五カ年計画はイノベーション、市場改革・開放、そしてグリーン化を通じた経済・社会発展を重点政策とし、2060年までの「カーボンニュートラル」(温室効果ガス排出実質ゼロ)を目指す目標を掲げている。

どこに投資するか

• これらの重要政策課題により、再生可能エネルギー、一般消費財、資本財、金融、5Gイネーブラー(5G社会の実現に不可欠なテクノロジー企業)などの業種におけるトップ企業の成長見通しが高まる。 

不動産

コロナ危機後のアジア不動産*

新型コロナウイルス危機により私たちの生活や働き方が大きく変化した。その結果、不動産業界などの産業にも波及的な影響が及んでいる。在宅勤務が広がると、本社用などのオフィス需要は低下すると見込まれるが、産業向けの資産保管スペース(倉庫など)は恩恵を受けるだろう。クラウド・コンピューティングの勃興でデータセンターへの需要も高まっている一方、アジアの住宅価格もこれまでのところ非常に底堅く推移している。

どこに投資するか

• データセンターや倉庫など、eコマースとクラウド・コンピューティングの構造的な増加の恩恵を受ける関連企業に投資機会が見出せる。

*詳しくは「UBSグローバル不動産バブル指数」をご参照ください。

Investing in Asia Pacific

2021年の見通し