何が起きたか?

米連邦準備理事会(FRB)が15日、新型コロナウイルスの影響は経済見通しのリスクになるとし、今月2回目となる緊急利下げを決定し、政策金利を0-0.25%に引き下げた。さらに、7,000億米ドル規模の量的緩和策も再開する。量的緩和については国債を少なくとも5,000億米ドル規模、MBS(住宅ローン担保証券)を2,000億米ドル規模買い入れ、「市場の円滑な機能を支援する」とした。13日(金)にはトランプ米大統領が国家非常事態を宣言し、最大500億米ドルの連邦政府資金を検査や治療態勢の強化に充てると発表した。下院は、新型コロナの無償検査、感染時の2週間の有給休暇、最大3カ月の家族・医療有給休暇を盛り込んだ経済対策法案を可決した。FRBとトランプ大統領の発表に加え、米国以外の世界各国でも新型コロナのパンデミック(世界的な大流行)に対し、金融・財政政策を含めた取り組みが強化されている。ドイツでは13日、新型コロナ危機の影響で資金繰りが悪化している企業を救済するため、5,500億ユーロ規模の経済政策パッケージを発表した。ドイツの経済相は、「タクシー運転手を含めた中小企業から、クリエイティブ企業、そして何万もの従業員を抱える大企業に至るまで」限度を設けずに支援すると述べた。新型コロナの感染者数が依然増加しているなか、各国政府は次々と対応策を打ち出している。世界全体の感染者数は約17万人、死者数も約6,500人に達しており、経済の混乱を示すデータも相次いでいる。欧州各国で事実上の国境封鎖の動きも広がっている。加えてスペイン、フランス、オランダでは国内での移動制限も実施している。米アップルは中国以外の全店舗を一時閉鎖すると発表した。

市場のボラティリティ(相場変動)は来週も続くだろう。S&P500種株価指数は13日に9.3%上昇し、2008年以来で1日にして最大の上げ幅を記録したものの、本レポート執筆時でS&P500種指数先物は大幅に下落している。米ドルもユーロに対し0.7%下落し、ユーロ/米ドルは現在1.117となっている。

13日の株式相場急騰の前日には9.5%急落しており、市場は利下げといった幅広い景気対策措置よりも、ウイルス感染拡大と景気への影響の抑制に的を絞った政策措置を期待していることを示している。また、投資家はボラティリティの高い間に急いで投資判断をするべきではないことも、ここから理解できる。近年の事例からみても、相場急落に次ぐパニック売りで最悪の日々が続いた後に、最高の日々が訪れる可能性がある。

何に注目しているか?

先週の金融市場は歴史に残る動きとなった。米国は過去最短で弱気相場に突入、ユーロ圏株式は一日の取引として過去最大の下げ幅を記録、原油価格は過去最大規模の急落となり、国債市場の流動性低下は株式市場で無差別なパニック売りを引き起こし、VIX指数は75と2008年の過去最高水準を5ポイント下回る水準まで上昇したが、最終的には株式相場は急騰する形で週を終えた。

今週以降、ここから数週間の市場では、次の点が確認できるかどうかに注目が集まるだろう。

先進国で新型コロナが封じ込められたか

中国と韓国で講じられた新型コロナウイルスの感染拡大の封じ込め策が功を奏していることに加え、週末には、欧州で最初に封鎖された町の一つ、イタリアのヴェネト州ヴォーで48時間新たな感染者が報告されなかったという朗報がもたらされた。欧州と米国で集団感染が急速に広がる中、イタリアは国内全域での人の移動制限や大半の小売店舗の営業停止といった強硬な封じ込め策を他国に先駆けて講じてきた。こうした措置の成功が確認できれば、投資家は、欧州でウイルス感染拡大封じ込めが成功した国があるという安心感を得られるかもしれない。しかし同時に、そこに至るまでの経済的コストがどの程度になるのかという不安も高まるだろう。

新型コロナに対する経済面からの対抗措置がしっかりと講じられているか

米国ではトランプ大統領が国家非常事態宣言を発し、ドイツでは、新型コロナウイルスの脅威を乗り切るためにドイツ復興金融公庫(KfW)に最高5,500億ユーロの企業向け融資枠を設けたとアルトマイヤー独経済相が発表し、いずれも市場からは歓迎された。つまり市場は、今回の危機によっても中小企業をはじめとする民間企業の倒産が広がらないという安心感を求めていることがわかる。打撃を受けている労働者や中小企業向けの住宅ローンの返済猶予制度や融資基準の緩和は、景気後退の深刻度を緩和し、景気回復を後押しするだろう。一方、移動制限など、経済的なコストが高い割には封じ込めにそれほど効果を上げていない施策は、先週の市場の反応や今週の動きを示唆する先物市場の動きにも見られるように、市場からは悪材料と取られる可能性が高い。

さらに広範な政策措置が実施されるか

経済全般を支援する財政支出や利下げといった対応措置は、ウイルスによる経済への短期的な悪影響には効きにくいが、景気回復が一旦始まれば、景気の大幅な回復が期待されるという一定の安心感を投資家に与えるだろう。一方、先週には米国債市場の流動性が低下する兆候が見えたため、各国の中央銀行は流動性不足への警戒を維持する必要があるだろう。ムニューシン米財務長官がインタビューのなかで、(1987年のブラックマンデー時の)グリーンスパンFRB元議長による有名な声明を繰り返し引用したことも、13日の市場には安心材料となった。「流動性供給の用意はあります。我々が必要なだけ、FRBが必要なだけ、議会が必要なだけ(供給します)」。カナダ銀行、イングランド銀行、日本銀行、欧州中央銀行(ECB)、スイス国立銀行など各国の中央銀行は、FRBと足並みを揃えて米ドルの流動性を確保すべく協調的な行動を取っている。

推奨戦略は?

中国経済が景気回復を牽引し、米欧経済は第3四半期に回復に向かい、市場は現在の水準よりも大幅に高い水準で2020年を終えると我々は予想する。しかし、ボラティリティが高いなかでの投資は一筋縄ではいかない。こうした投資環境下で、我々は以下の戦略を勧める。

  • 株式の定期的な購入と間接的な株式エクスポージャーの組み合わせ:規則的に分割して株式を購入することで短期的な相場変動の影響を緩和させることや、間接的に株式のエクスポージャーを保有することで相場上昇時に利益が出やすく下落しても損失が抑えられるポジションを構築する戦略が検討できる。
  • ポートフォリオの利回りを向上させる戦略:低利回り・低金利の環境下、配当銘柄や米ハイイールド債を推奨する。ハイイールド債は目先、スプレッドがさらに拡大する余地はあるが、この先6カ月ではスプレッドはかなり縮小すると予想する。
  • 米ドル安の進行に備える:FRBの利下げにより、米国債の利回りの優位性は縮小している。年内はさらに米ドル安が進行するとみており、ユーロ/米ドルの12月末のレートは1.19と予想している。
  • コロナリスクを回避し、ポートフォリオを守る投資手段を検討:金や米長期国債 (高格付債に対して米物価連動債(TIPS)のオーバーウェイトを推奨)などへの投資でリスクを回避する。
  • 下落局面を利用して長期テーマに投資する:足元の相場急落は全セクターに影響を及ぼしたが、コロナ危機は長期投資テーマに資金を配分する好機ともなり得る。現在の危機が収束した後であっても、ポートフォリオの長期的な収益成長を求める投資家にとっては、世界的な人口高齢化やヘルステック、遺伝子治療の飛躍的進歩などが長期投資の機会を提供する。さらに、この危機を契機にオンラインビジネスやサプライチェーンの現地化などが加速し、第4次産業革命やデジタル・トランスフォーメンションに関連した企業が恩恵を受けるだろう。

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