中国レポート:景気回復トレンド継続と人民元への追い風

中国では国慶節(建国記念日)と中秋節が重なる大型連休が2020年10月1日から始まります。オンライン旅行会社(OTA)によると、国慶節の8連休(1~8日)の旅行者数は6億人を超える見通しです。

個人消費がプラス転換、国慶節で更に加速も

中国では国慶節(建国記念日)と中秋節が重なる大型連休が10月1日から始まります。オンライン旅行会社(OTA)によると、国慶節の8連休(1~8日)の旅行者数は6億人を超える見通しです。

中国国内では、新型コロナウイルスの新規感染者が1カ月以上ゼロとなり、観光市場の回復、それに伴う消費の増加に期待が高まっています。

主要経済指標では、新型コロナウイルスの影響で落ち込んでいた個人消費が今年初めてプラス成長に転じました。生産と投資の指標もそれぞれ順調に上向いており、景気回復の勢いが一段と強まった形です。国慶節連休には旅行、消費ともに今年のピークを迎えるとみられています。

年内の中国経済について、UBSはGDP予想を年後半は5.5-6%、2020年通年では2.5%としています。消費の回復傾向に加え、不動産投資や海外需要に回復が見られた場合、予想値を上方修正する展開もありそうです。

米中紛争激化の中での人民元高

中国の景気回復を受けて、人民元は5月下旬の安値から、一時は5%超の上昇となりました。米中の関係悪化が進む中での人民元高は、米ドル独歩安や米中高官による協議継続、第1段階貿易協定の存続などの要因の他に、強い理由があったと思われます。

図1:中国主要経済データの推移(前年比・%)

各指標

各指標

2019年8月

2019年8月

2020年6月

2020年6月

2020年7月

2020年7月

2020年8月

2020年8月

各指標

鉱工業生産

2019年8月

4.4%

2020年6月

4.8%

2020年7月

4.8%

2020年8月

5.6%

各指標

固定資産投資(年初来、1月-)

2019年8月

5.5%

2020年6月

-3.1%

2020年7月

-1.6%

2020年8月

-0.3%

各指標

固定資産投資(単月・前年比)

2019年8月

4.3%

2020年6月

5.3%

2020年7月

6.1%

2020年8月

7.6%

各指標

製造業投資

2019年8月

-1.6%

2020年6月

-3.5%

2020年7月

-3.1%

2020年8月

5.0%

各指標

インフラ投資

2019年8月

4.9%

2020年6月

8.4%

2020年7月

7.7%

2020年8月

7.1%

各指標

不動産投資

2019年8月

10.5%

2020年6月

8.5%

2020年7月

11.7%

2020年8月

11.8%

各指標

小売売上高

2019年8月

7.5%

2020年6月

-1.8%

2020年7月

-1.1%

2020年8月

0.5%

各指標

輸出

2019年8月

-1.0%

2020年6月

0.5%

2020年7月

7.2%

2020年8月

9.5%

各指標

輸入

2019年8月

-5.5%

2020年6月

2.7%

2020年7月

-1.4%

2020年8月

-2.1%

各指標

不動産販売面積

2019年8月

4.7%

2020年6月

2.1%

2020年7月

9.5%

2020年8月

4.7%

各指標

新車販売台数

2019年8月

180万台

2020年6月

230万台

2020年7月

211万台

2020年8月

218万台

出所:CEIC、UBS作成

人民元高のより重要な要因となったのは5 月以降の世界的な金融緩和の一服後に明らかになった中国と主要経済国間の金利格差の拡大です。中国と米国の利回り格差はその後も拡大し、足元では長期債利回り格差は約2.5%となっています。これにより、人民元建資産への投資妙味が高まったと見られています。

中国の経済回復は他のほとんどの地域に先行し、度合いも大幅に上回っています。足元、8月の経済・新規融資の伸びも堅調だったことで、人民銀行が追加の緩和策を実施する可能性は低下したと見られています。

経済回復と金融安定がフローを呼び込む

今後も中国人民銀行が相対的に高い金利水準を維持した場合、その他の主要な経済国におけるゼロ金利もしくはマイナス金利政策との差が際立つことになります。経済回復と金融安定の観点から、人民元建資産へのフローが人民元相場を今後も支えると見られます。

中国は新型コロナウイルスなどが原因で国際社会との軋轢が増しています。一方で、外国人機関投資家の投資収益の本国送金をより容易にするなど投資家には寛容な姿勢を取っています。資本規制下のもと、投資収益を外に持ち出せないとの懸念はかなり緩和されています。

新規のポートフォリオ資金の中国市場への流入

更なる朗報として、今月24日に、英指数算出会社FTSE ラッセルが、代表的な国債の指数「FTSE世界国債インデックス(WGBI)に中国国債を組み入れると発表しました。同指数は世界の年金基金など幅広い機関投資家が利用し、日本の投資家に馴染みの深い指数です。同指数に連動する運用資金は2~2.5兆円(約210~263兆円)に達すると見られています。

既に中国の現地通貨建て債券においては、2019年4月からブルームバーグ・バークレイズ・グローバル総合指数への組み入れが開始となり、今年2月からはJ.P.モルガンのGBI-EMへの組み入れも開始されています。新たに上記指数への参入が決まったことで、潜在的に大規模かつ新規のポートフォリオ資金の中国市場への流入を示唆する好材料になると期待が高まっています。

実際の組み入れ時期は、2021年10月から(ただし2021年3月に再度確認)と先ですが、市場への影響を緩和するために数四半期にわたって配分されるとみられ、市場にとって強力なシグナルになると思われます。

中国国債の組み入れ比率は5~6%と推定されており、これにより、主に先進国通貨からの資金流入が1,250~1,500億米ドル(約13~16兆円)増加する可能性があります。

UBSでは、このような人民元への複合的なプラス要因を踏まえ、2020年末の対ドルの人民元予想値を6.70に修正しています。

図2:人民元と中国債券利回りの推移

(2018年9月24日から2020年9月24日)

人民元と中国債券利回りの推移
出所:リフィニティブより