中国レポート:鍵を握る個人消費と米中摩擦の行方

中国国家統計局が2020年8月14日発表した7月の主要経済指標は、新型コロナウイルスの影響から中国経済の回復が続いていることを示すものとなりました。

中国経済、コロナ禍からの回復で世界リード

中国国家統計局が14日発表した7月の主要経済指標は、新型コロナウイルスの影響から中国経済の回復が続いていることを示すものとなりました。中国経済は4-6月期の急回復に続き7月も回復が確認されました。

7月の鉱工業生産が前年比+4.8%と伸び率は前月から横ばいながら増加し、固定資産投資が年初来前年比-1.6%と前月の同-3.1%から、小売売上高が前年比-1.1%と前月の同-1.8%から、マイナス幅を縮小しました。

鉱工業生産は4カ月連続のプラス成長となり、不動産セクターでの大幅改善や、貿易収支での予想以上の輸出の伸びなどが寄与した模様です。

特に不動産セクターは、金融緩和を背景に素早い立ち直りを見せました。7月は投資額が11.7%増となり、販売面積も9.5%増となっています。また、7月の貿易統計では、貿易額が3.4%増加し2カ月連続のプラスと改善が続いています。特に輸出は7.2%増となり、主要国の経済が再開する中、海外需要の底堅さが今後も続く可能性があることが示唆しています。

1-7月の固定資産投資は、年初からマイナス成長が続いていますが、減少率は1-6月から1.5ポイント縮小しました。高温と大洪水にもかかわらず、これまでに実施してきた政策的取り組みが伝統的及び新たなインフラ開発を支えた模様です。

図1:中国主要経済データの推移(前年比・%)

各指標

2019年7月

2020年6月

2020年7月

備考

鉱工業生産

4.8%

4.8%

4.8%

自動車生産等が牽引

固定資産投資(年初来・1月-)

5.7%

-3.1%

-1.6%

インフラ及び不動産投資が牽引

固定資産投資(単月・前年比)

5.2%

5.3%

6.1%

7月も反発

製造業投資

4.7%

-3.5%

-3.1%

マイナス継続

インフラ投資

2.7%

8.4%

7.7%

政策のサポート

不動産投資

8.5%

8.5%

11.7%

改善継続

小売売上高

7.6%

-1.8%

-1.1%

消費者の慎重姿勢

輸出

3.4%

0.5%

7.2%

各国で経済再開

輸入

-4.9%

2.7%

-1.4%

再びマイナス

不動産販売面積

1.2%

2.1%

9.5%

金融緩和が追い風

新車販売台数

180万台

230万台

211万台

4カ月連続で前年比増

出所:CEIC、UBS作成

小売売上高は再び期待外れ、明るい兆しも

個人消費の指標となる小売売上高は、7月はマイナス幅を縮小したものの、予想を下回る結果でした。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)で外需が弱含みの中、内需が依然としてマイナスに沈んでいることは中国経済の不安材料の一つとみられます。

今年に入り、消費セクターは他のセクターに遅れを取っています。失業率の悪化と所得の伸び低迷が背景とみられています。当局は引き続き内需の拡大や供給側(サプライサイド)の構造改革に取り組む必要があると指摘しています。

その中で明るい兆しは、自動車販売の増加です。同月の新車販売台数は前年同月比16.4%増の211.2万台と大台を維持し、4カ月連続で前年を上回っています。この他、金価格の上昇を背景に、金と宝飾品の売上高(7月)も7.5%増と明らかな加速を示しました。

中国経済、下半期も回復基調を維持

中国は、1-3月期に厳格な行動規制が敷かれる中で経済が大幅に縮小した後、主要国で唯一、4-6月期に前年同期比でプラス成長を果たしています。7月も緩やかな回復が確認されたことで、UBSグループは、中国経済は下半期も回復が続くと予想しています。具体的には、下半期のGDPを5.5-6% (前年比)と予想し、2020年通期では2.5%を見込んでいます。

中国政府の政策姿勢は下半期も変わらないとUBSは予想しています。金融面では17日に人民銀行が資金を銀行システムに供給するなど緩和姿勢を示しており、財政面では特別地方債の発行が継続され、インフラ投資の強化も期待できます。高温および大洪水が終了した暁には、経済回復の勢いが強まる可能性もあります。

図2:小売売上(内訳)の推移

(前年比・3カ月移動平均・%)

小売売上(内訳)の推移
出所:CEIC、UBS証券

鍵を握る個人消費と米中摩擦の行方

中国は新型コロナウイルスの封じ込めに成功し、経済的影響では米国よりはるかに大きな耐久性を示しています。弱さが残る個人消費には明るい兆しもあり、雇用や大洪水への不安の後退に伴い、現在回復が遅れているケータリング、旅行、オフラインエンターテイメントといった分野が、正常化に向かうとみています。

一方で、15日に予定されていた米中通商協議(第1段階合意レビュー)は延期され、米中摩擦については今後数カ月に更に激化する展開に留意が必要です。ただ、トランプ大統領にとって、中国が約束した米産品の巨額購入は11月に迫る大統領選のアピール材料になるため、貿易面では合意の枠組みは維持し、票に繋がる見えやすい外交圧力に留める可能性があります。

米国との対立が広がる中、習近平国家主席は自国経済の自立化を加速させています。習氏は最近の発言を通じ、いわゆる「双循環」経済発展モデルを強く訴えています。同モデルでは、特定の外国の技術や投資で補完しつつ、より自立した国内経済を主な成長エンジンとすることを目指しています。中国政府の目先の優先課題は、同モデルに沿って家計支出及び企業の設備投資を支えることです。今後は、供給のみならず需要サイドまですべて完結させる「内循環」がどこまで強化できるかが、中国のさらなる経済発展の鍵を握っていると思われます。