中国レポート:中国の今、消費行動の変化と経済再開の行方

中国経済の2020年1-3月期はマイナス6.8%成長でした。四半期GDP(国内総生産)の正式発表が始まった1992年以降で初めての縮小です。

中国は初のマイナス成長、回復の鍵は内需

中国経済の1-3月期はマイナス6.8%成長でした。四半期GDP(国内総生産)の正式発表が始まった1992年以降で初めての縮小です。中国で新型コロナウイルス感染が拡大した1月下旬から2月中旬、中国企業の大部分が休業を余儀なくされました。全国的な都市封鎖を考えれば、1-3月期のマイナスは予想の範囲でした。

移動制限解除と経済再開が進んだ3月の中国では、国有企業が主導し、生産の回復が見られました。鉱工業生産は(前年同月比1.1%減)予想を上回り、輸出の鈍化は縮小、クレジットの伸び(前年同期比+11.6%)も堅調でした。一方今後は、世界的に蔓延した新型コロナウイルスの影響による外需の低迷や、国内での第二の感染の波などのリスクが指摘されています。

更に、4月8日には武漢の封鎖措置を解除し、中国は世界に先行し、コロナショックからの回復加速へ舵をきっています。この流れは、欧米で急がれる経済再開の先導と教材になると見られ、世界が注目しています。

UBSは、基本シナリオとして、①国内感染の再拡大の封じ込め、②経済活動の正常化、③追加の政策支援の実施の三つを前提に、中国の4-6月期成長率を+1.5%と試算しています。外需が一段と弱くなった場合でも、力強い内需が主導し、回復が進むと予想します。特に、オンラインを中心とした消費回復に期待しています。

足元の消費動向、エビデンスが示す悲観と希望

足元の中国で、生産活動に対し消費が弱い背景には、1-3月期に失った収入が今年後半になっても取り戻せないとの懸念があるようです。

UBS Evidence Lab の最新調査では、実施された4月上旬までには春節で故郷に帰った人々の85%が都市に戻り、仕事に復帰していることが確認されています。「失業した」と答えた人は少なかったようで、純粋な資本主義の米国とは違う点です。

一方、雇用は維持されても、「回答者の54%が収入の減少」を訴えています。また、「60%を超える回答者が都市封鎖の解除後も、リアル店舗でのオフライン支出を以前と比べて大きく減らしている」と答えています。

図1: 中国消費動向、封鎖措置の前後での変化

中国の消費動向、封鎖措置後はオンラインショッピングが増加
出所:UBS証券「UBS Evidence Lab. All 1000 respondents」より

加えて、多くの調査回答者が「外食やショッピングを控えると共に不動産購入などの金額の大きい支出については延期する」と回答しました。都市封鎖、移動制限を先行して解除できた中国でさえ、消費の回復が遅れる可能性があります。これらが悲観的な側面です。

一方で、希望となる明るい側面としては、オンラインショッピングの大きな伸びと消費行動の変化が注目されます。「回答者の45%は、新型コロナウイルス感染拡大以前よりもオンラインのエンターテイメント消費を増やし、回答者の38%はオンラインショッピングへの消費を増加した」と答えています。

また、若者よりも55歳以上の人々のオンライン消費が感染拡大前よりも22%も伸びており、都市封鎖後の中・高齢層によるオンラインショッピングへの消費行動の変化が消費全体を後押しすると期待されます。

図2: 堅調なオンラインショッピング

堅調なオンラインショッピング、特に中・高齢層で増加

(グラフの下軸=年齢)

支出の中身では、「48%がスポーツとエンターテイメントへの支出を増やす」と答え、「28%が日用品の支出を増やす」と答えています。意外だったのは、「27%が自動車を購入したい気持ちが高まった」と答えたことです。中国政府は消費券の配布や新エネルギー車消費、自動車買い替え促進などの個人消費刺激策を次々と発表しています。各地方でも自動車購入制限の緩和や独自の補助金制度の導入が進められており、今後、消費ニーズと合致して政策効果が高まると思われます。

オンライン企業における明るい兆候

このような消費者動向の変化の中で、オムニチャネル*運営能力を持つ消費セクターの企業は、移動制限の解除後の回復ペースが他企業よりも早いと報告されています。

2月の小売店の営業再開率は20-50%でしたが、3月末には80-90%の店が営業を再開しました。4月に入ると、マオタイなどの企業で白酒の小売店販売増が確認され、高級消費を含めた消費全般で回復が見えています。

UBSの調査で確認されたリアル店舗での売上げ低迷が懸念される中で、中国消費セクターの主役は、堅強なバランスシートやサプライチェーン管理体制を持つトップ企業が占めると見られ、業界内の統合も加速すると見ています。

また、大手e-コマース企業では、景気刺激策の効果が企業活動を後押しし、3-4月に業績の回復が見られています。特にアリババやJDの回復が顕著です。アリババはリアル店舗とネット融合など高いオムニチャネルの運営力が評価される他、中国の個人向けに加え、企業のデジタル化に長期的に貢献することで、さらに存在感を高めると、UBS証券では分析しています。

図3: 中国の自動車販売推移、2019年/2020年

(左軸-棒線/4週平均の販売数/千台)(右軸-折れ線/前年比)

自動車販売は前年比減少も、今後回復の兆しか
出所:China passenger car association, Wind、2020/4/12時点

今後の中国消費の行方、資産の再配分

このように、都市閉鎖の解除後の中国では、消費行動の変化が消費全体を押し上げる兆しが、消費調査や企業動向に現れつつあります。一方で、中国が内需主導でマイナス成長から脱するには、更なる消費刺激策が必要だと見ています。

UBSでは、今後もより多くの政策支援を見込んでいます。消費促進に向けては、収入の減少を補う消費者クーポンや様々な補助金の導入に加え、金融緩和によるクレジットの伸びが後押しすると予想しています。

また、5月中の開催が見込まれる全国人民代表大会では、更なる景気刺激策の発表が期待されています。監視統制による新型コロナウイルスの感染封じ込めと、力強い経済復興を如何に両立させるか、中国トップの強い政治リーダーシップと舵取りに注目が高まるでしょう。

足もと、中国だけではなく、世界各国で新型コロナウイルスの新規感染に拡大のピークが見えてきました。世界の投資家は、都市封鎖や移動制限の解除後の経済回復に関心を移しつつあり、先行している中国での回復パターンを注意深く観察しています。

欧米での経済再開が遅れる一方で、巨大な消費市場を抱える中国が、アフターコロナの新たな消費形態を確立し、内需主導の回復に成功した場合、中国資産を中心に「グローバル資産の再配分」が促されると見ています。