中国レポート:世界を引き離す中国、高まる投資妙味

中国では国慶節の後、数ヶ月ぶりに青島で新規国内感染者が確認されましたが、迅速で強力な封じ込め策の結果、2020年10月16日以降は国内感染者数が再びゼロとなっています。

コロナ封じとワクチンで世界を引き離す 

中国では国慶節の後、数ヶ月ぶりに青島で新規国内感染者が確認されましたが、迅速で強力な封じ込め策の結果、16日以降は国内感染者数が再びゼロとなっています。これに対し、西欧諸国には「感染第2 波」が押し寄せ、ロンドン、パリ、ウィーンなどで制限措置が強化されています。世界全体ではすでに4,000 万人を突破。最多の米国では800 万人を超えています。

中国では北京市と武漢市で(シノファームが開発した)ワクチン接種の予約を開始し、パンデミックの管理において先を進んでいるようです。一方欧米では、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどが安全上の懸念を理由にワクチンの臨床試験の一時的中断を余儀なくされており、開発は足踏み状態です。

経済回復の強さで世界を引き離す

9月の中国経済は回復が更に進み、概ね市場予想を上回りました。9月の輸出は前年比+9.9%、輸入は+13.2%となり、今年最大の伸びを記録。特に、自動車や主要コモディティの輸入の目に見える改善は内需の回復加速を示しています。

これは貸出の力強い伸びに整合的です。例えば、家計向け長期貸出(主にモーゲージ)は、一級都市で住宅の販売および価格が上昇する中、20ヵ月ぶりの高水準に達しています。不動産投資や不動産販売面積の伸びも同様に好調です。

図1:中国主要経済データの推移(前年比・%)

各指標

各指標

2019年9月

2019年9月

2020年8月

2020年8月

2020年9月

2020年9月

各指標

実質GDP成長

2019年9月

6.2%(3Q)

2020年8月

3.2%(2Q)

2020年9月

4.9%(3Q)

各指標

鉱工業生産

2019年9月

5.8%

2020年8月

5.6%

2020年9月

6.9%

各指標

固定資産投資(年初来・1月-)

2019年9月

5.4%

2020年8月

-0.3%

2020年9月

0.8%

各指標

固定資産投資(単月・前年比)

2019年9月

4.8%

2020年8月

7.6%

2020年9月

7.5%

各指標

製造業投資

2019年9月

1.9%

2020年8月

5.0%

2020年9月

3.0%

各指標

インフラ投資

2019年9月

5.0%

2020年8月

7.1%

2020年9月

4.8%

各指標

不動産投資

2019年9月

10.5%

2020年8月

11.8%

2020年9月

12.0%

各指標

小売売上高

2019年9月

7.8%

2020年8月

0.5%

2020年9月

3.3%

各指標

輸出

2019年9月

-3.2%

2020年8月

9.5%

2020年9月

9.9%

各指標

輸入

2019年9月

-8.2%

2020年8月

-2.1%

2020年9月

13.2%

各指標

不動産販売面積

2019年9月

2.9%

2020年8月

13.7%

2020年9月

7.3%

各指標

新車販売台数

2019年9月

227万台

2020年8月

218万台

2020年9月

256万台

出所:CEIC、UBS作成

その他の主要経済指標では、9月の中国小売売上高は前年同月比3.3%増と、2カ月連続の増加となった他、1-9月の可処分所得は前年同期比0.6%増と、今年初めてプラスに転じました。

今春から景気回復を主導していた製造業も、予想を上回る好調ぶりを維持しました。コロナ流行で品薄感の強い医療関連用品や自宅勤務の普及によるパソコン(PC)需要が輸出の失速を防いでいます。9月の鉱工業生産は、伸びが8月の5.6%増から6.9%に加速し、こちらも予想を上回る内容となっています。

堅調な景気回復が続くも、過剰な期待はできない

一方で、7-9月期の中国GDPは、大方の予想(5.3%増以上)には届きませんでした。加えて、インフラ投資の伸びは4.8%と予想を下回り、ケータリング売上の伸びも3%と1年前よりもかなり弱い状況です。

モビリティの回復を受けたサービスやオフライン消費への回復期待は少し過剰だったようです。巨額債務や過熱気味の不動産市場に対する抑制策も今後は警戒が必要です。UBSでは2020年通年の成長予想について、以前の2.5%から2.1%に引き下げ、2021年予想も7.6%から7.5%へとわずかに引き下げています。

世界経済の救世主より「国内大循環」を優先

中国が再び世界経済の救世主になる展開は期待薄です。今回の景気刺激策の規模は2008年当時と比べて圧倒的に小さくなっています。順調な景気回復により巨額の財政出動に出番はなく、中国人民銀行はタカ派姿勢の維持が可能になっています。過去のように大型財政や金融緩和策で世界を主導する状況ではありません。

西側諸国との摩擦が高まる中、中国の指導者は外国への依存度を減らし国内に重点を置く「国内大循環」へのシフトを強めています。中国が自立を目指す背景には、西側諸国のコロナ感染動向への警戒もあります。

このように世界を引き離しつつある中国は、コロナ後の長期計画を世界に示そうとしています。共産党は10月26-29日に第5回全体会議を開催し、中央委員会はその期間中に第14次5ヵ年計画(2021-2025年)と2035年までの長期目標を議論します。5ヵ年計画においては、政府の「成長目標の引き下げ」、「経済転換の原動力」の強化、「グリーン・エコノミー」への取り組みといった論点が注目されます。これらは株式投資家にとっても重要なテーマとなるでしょう。

コロナから政策へ、投資テーマも本格的にシフト

コロナ問題を克服した中国は、追加の刺激策より国内の経済転換・構造改革を優先できる状況にあります。

「成長目標の引き下げ」は、中国への輸出依存度の高い企業や国にとってマイナスとなる一方で、「国内大循環」の加速で、内需銘柄への恩恵が強まりそうです。

「経済転換の原動力」も主要テーマとなりそうです。牽引役であるハイテク企業の底上げ、新たな投資機会の拡大など政策支援に投資家は期待しています。既に深センに建設する「中国の特色ある社会主義の先行モデル地区」が発表され、金融市場はポジティブな反応を見せています。デジタル通貨など、新たな領域でも中国の技術的な優位性が発揮されようとしています。

「グリーン・エコノミー」へ取り組みでは、新たなクリーンエネルギー産業振興策に期待が膨らんでいます。既に太陽電池メーカーなどに投資マネーが流入しており、世界的にも注目される成長テーマの一つです。

中国が世界を置き去りにする展開が進み、魅力的な投資テーマへの関心が高まっていますが、海外の投資家が保有する中国資産は十分とは言えない状態です。

人民元高の継続、国際化が中国投資の追い風へ

中国投資においては、人民元の方向性と国際化が鍵を握りつつあります。足元では、高利回りが魅力の中国債券に加え、中国市場に上場する「ホットな」企業が世界から資金を引き寄せ、人民元高が進んでいます。元高は輸出業者の逆風ですが、中国は外需への依存から脱却を優先させる可能性があります。「国内大循環」へのシフトを強化し、内需拡大に焦点をあてる意味で人民元の継続的な強さが容認される展開が期待されます。人民高基調の継続は、中国株など中国アセットにとって追い風となるでしょう。