強まる中国の世界での存在感がグローバル資産の再配分を促す

世界経済を太陽系に見立てると、中国は太陽と同じポジションです。

  • 世界経済を太陽系に見立てると、中国は太陽と同じポジションです
  • 昨今、世界の金融政策、消費者需要、技術革新の3つの分野において、中国の影響が広範囲に強まってきています
  • これは、中国が、私たちの住む世界を変えつつあり、また投資の分野において幅広い投資トレンドの源泉となっていることを意味しています
  • 米中貿易摩擦の激化においても、世界の投資家がこのことを強く認識するようになってきており、グローバル規模で中国への資産配分の 大きなシフトを促す原動力となっているのです

世界経済を太陽系に見立てた場合、中国は太陽と同じ中核のポジションです。

個人レベルでは意識しにくいものの、地球が太陽からの引力の影響を受けるように、昨今、世界および私たち個人も中国からの引力に大きな影響を受けています。

2019年という年を振り返ると、特にその傾向が 当てはまります。2019年に世界中で緩和的な金融政策が強まり、株式市場が堅調となったストーリーの背景には、中国の存在があります。

32 成風街(中国人民銀行本部がある北京の通り)

中国は2018年10月に金融政策に初めて踏み切り、その後、世界中で金融政策が行われました。

中国の金融政策が世界に影響を与えたのはこれが初めてではなく、2010年の金融危機後の回復、2016年の世界経済成長の回復、そしてその後の 2018年における世界景気減速にも影響を与えてきました。

いずれも過去の話だと過小評価されていますが、これらの事象は、世界の金融政策が、中国人民銀行本部のある北京の通りから発信される政策の影響を受けて形成されるという、一つの未来を暗示しています。

図1

中国クレジット・インパルス(左軸)とG20諸国のGDP成長率(右軸)/(%、前年比、20081Q~2019Q3 )

出所: Bloomberg,Organisation for Economic Cooperation and Development,October、2019年10月。注:(1)中国のクレジット・インパルスは、経済全体のクレジットに対するGDP成長率の変化、(2)G20は、19か国とEUからなります。アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、ドイツ、フランス、インド、インドネシア、イタリア、日本、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、韓国、トルコ、英国、米国の19カ国。

強まる中国からの引力 世界経済への影響は他のどの国よりも大きい

2018-2019年の世界経済への寄与度

出所: IMF, 2019年

過小評価されてきた中国の世界経済への引力

金融政策は重要ですが、さらに重要なのは、その金融政策が経済に与える影響です。このことを踏まえると、中国の消費動向が世界経済に与える影響力を考える必要があります。

マッキンゼーの推計1によると、中国はまもなく世界最大の消費市場となり、中国の年間経済成長に76%寄与すると試算されています。

この影響で、英プレミアリーグの試合でのピッチサイドには中国語の広告が多く見られます。世界中の最高級ホテルでも、既にレセプションにおける中国人スタッフの配置が標準となっています。

これからご紹介していきますが、中国の持続力のある消費ストーリーは、その都市化と所得増加の原動力と同じくらい、中国企業のイノベーションと強く結びついています。

「キャッシュレス化」はその代表的な例です。2018年に中国人民銀行は、277.4兆人民元(約4,200 兆円)のキャッシュレスでの支払い実績を報告2しています。中国におけるキャッシュレス化の浸透による社会の変貌は、もはや「中国の62%にのぼる消費者が100人民元(1500円程度)の現金があれば、1~4 週間は生き残ることができる」3水準に達していま す。

先進国に追いつき、追い越す中国の技術力

技術イノベーションの領域において、中国の実績が世界をリードし始めています。

それは、宇宙探査の領域において特に顕著です。中国の無人探査機「嫦娥4号(じょうが4号)」は2019年に人類にとって未知の場所だった「月の裏側」への着陸に、世界で初めて成功しました。

この着陸の成功は、テクノロジー世界における中国の取り組みの典型的な事例であり、いかにして競合国に追いつき、さらに追い越していくかを示しています。

さらに中国は、ドローンからスーパーコンピュータまで、自国のみならず、今後世界を大きく変えて いく可能性を秘めた技術イノベーションを幅広く 生み出しています。

強まる中国の引力

そして、米中貿易摩擦が激化した状況でも、 投資家は中国の重力に引き寄せられています。

例えば、海外直接投資を考えてみましょう。中国が 課す貿易関税と米国からの圧力によって、海外の企業は中国への投資に二の足を踏むと見られていました。しかし実際には、2019年に流入額は増加しました。

世界中の企業にとって、中国は今や低コストの輸出用製品を大量生産する工場ではなく、魅力的な国内市場を持ち、様々な新製品の開発・販売を試す場となっています。

この引力は株式や債券の投資家にも影響しています。中国人民銀行によると、中国本土における活気ある 消費財やテクノロジー分野での投資機会に引き寄せ られ、海外投資家の中国オンショア資産の保有額は 着実に増加しています。2019年9月時点での保有額は、前年同月比30%増の4兆人民元(約60兆円)に達しました。

こうした引力が強まった背景には、中国のファンダメンタルズ(社会・経済基盤)からの影響もありま す。国内の都市化、自動化、人口動態の変化、消費の高級化、インターネット人口の増加といったダイナミズムは、いずれも成長の余地が非常に大きく、投資家にさまざまな機会をもたらしています。

さらに重要なことは、中国が時代とともに変化する柔軟な政策能力を示したことで、政府の経済運営に対する信頼が高まっている、ということです。 過去数年間に実施された政策を簡単に振り返っても、一人っ子政策が撤廃され、農村部から都市部への人口移動規制も撤廃され、また海外投資家が中国オンショア市場に参入可能になったことがあげられます。

つまり、「魅力的なファンダメンタルズ」と「改革へのコミットメント」の組み合わせこそ、私たちが長期的な成長ストーリーであると信じているものの1つなのです。

また、長期的な展望として、世界的な債券・株式指数への組み入れに伴う資産配分の変化が、魅力 的な中国オンショアへの参入機会を高めると同時に、今後中国の経済的厚みが投資に反映されることに より、「グローバル資産の再配分」が促されると見ています。

中国資産への投資では、もはやニッチで、「あると 助かる」といった考えに基づくアプローチでは通用 しなくなるでしょう。実際に、中国の経済規模の世界のそれに占めるウエイトを考えれば、米国、英国、 日本と同様に、単一国としての扱いが必要と考えて います。

私たちは、資産配分を検討する運用担当者にとって、「2020年の投資戦略」を考える前に、「2020年の中国投資戦略」を考えることが、より重要になると見ています。

また今後、世界中の投資家は、人民元の見通し、中国における刺激的なイノベーションの波・消費セクターの強さ・気候変動対応などの影響を踏まえた上で、 戦略の基盤となるさまざまな機会を見いだしていく でしょう。中国が中核となって周る軌道から振り落とされない投資アプローチが必要となっています。

各投資家の「2020年の中国投資戦略」がより重要に!