• 日銀は18日の政策決定会合で、企業の資金繰りを支援するために120兆円規模の新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(以下「特別プログラム」という)を6カ月延長することを決定し、より効果的で持続可能な金融政策を実施するために現状の金融政策の点検に入ると発表した。
  • 今回の特別プログラムの延長と来年3月に規模が拡大する可能性を受けて、民間銀行は融資基準を緩和するだろう。政府による刺激策と併せて、今回の政策はデジタル化やグリーンテックへの設備投資の増加を後押しするものとみている。
  • 特別プログラム拡大の可能性は、企業投資を下支えする公算が大きい。来年も緩和的な政策は続き、金利や円相場に大きく影響するような急激な枠組み変更は予想していない。

日銀は18日の金融政策決定会合で、企業の資金繰りを支援するために120兆円規模の新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(CP/社債の買入れおよび特別オペ(コロナ対応融資枠))を6カ月延長することを決めた。これにより特別プログラムは2021年9月末まで継続される。今回の延長は市場の予想通りだった。さらに日銀は、2%の物価目標達成を目指しより効果的で持続可能な金融緩和政策を実施するために、現状の金融政策の点検作業に入る。一方で、現行の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)や量的・質的緩和の枠組みを変更するつもりはないとも表明した。点検の結果は2021年3月の政策決定会合で公表される。

新型コロナウイルスの感染再拡大を受けて、2021年は企業の倒産件数が増加すると政府は予想している。内閣府によると、現在の厳しい感染状況が来年も続けば自己破産すると回答した中小企業の割合は9%近くに上った。政府と日銀は、融資枠の強化が日本経済には不可欠であると述べた。

また我々は、政府と足並みをそろえて、日銀が金融緩和策を実施することが重要だとも考えている。菅内閣は、総事業規模が73.6兆円と、国内総生産(GDP)の13%に上る大規模な追加経済対策を承認した。そのうち30.6兆円(GDPの5.4%)が国費によるもので、新型コロナで打撃を受けた経済活動を活性化すするとともに、デジタル化や環境対策への民間設備投資を通じて経済変革を推進し、国家的強靭性を高めるためにインフラ投資を積極化する。こうした政府と日銀が一丸となった対応は、経済と市場により効果的に恩恵をもたらす。

日銀は現在の金融政策の点検の一環として、デジタル化やグリーン投資分野といった経済変革をもたらす設備投資により的を絞って、特別プログラムを一段と拡張すると予想する。菅内閣は短期的な新型コロナ関連の政策に軸足を置きつつ長期的な経済変革も重視しており、これについては2021年3月に国会で補正予算や税制改革の中で審議・可決されるものと考えている。日銀と政府は金融緩和と財政政策を組み合わせることにより、息の長い構造的成長への強いコミットメントを示すだろう。来年も緩和的な政策は続き、金利や円相場に影響するような金融政策の変更は予想していない。

我々は、特別プログラムの拡大は以下2つの影響を及ぼすと予想する。

1. 民間金融機関の融資基準の緩和

企業の資金繰り支援のためのプログラム延長により、民間金融機関による企業向け融資基準は緩和される可能性が高く、これは企業の倒産件数と失業率を抑えるうえで欠かせない(図表1参照)。新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた2月以降、日銀のバランスシートは120兆円拡大している。これには、62兆円の融資枠増額、53兆円の国債保有残高の増加が含まれる(図表2参照)。政府の支援により、日銀の融資枠を活用した企業向け融資の約40%が、信用保証付きである。日銀の特別プログラムの延長および拡大の可能性と政府保証があいまって、2021年は民間融資が下支えされ、これが企業倒産件数と失業率を抑えるものとみている。

図表1 - 金融機関の貸出基準D.I. および 失業率

D.I. および %

出所:Haver、UBS

図表2 – 日銀バランスシートの2月以降の増加額

単位:兆円

出所:Haver、UBS

2. 経済変革に向けた設備投資の推進—デジタル化、グリーン投資、企業再編

日銀の資金繰り支援プログラムは、新型コロナで打撃を受けている企業の直接的な救済だけではなく、デジタル化やグリーン投資、企業再編への設備投資の拡充といった経済変革の推進も間接的に支援される。また日銀による来年3月の金融政策 の点検により、特別プログラムがさらに拡大されるだろう。政府・日銀による支援は、設備投資の増加や企業再編の促進を後押しすると考えている。また、民間企業には設備投資の拡大余力がかなりある。新型コロナ感染拡大が始まって以降、企業の負債総額は増加しているにもかかわらず、政府による巨額の景気刺激策に加えて日銀の大胆な金融緩和のおかげで、企業の純負債/総資産比率は過去最低で推移している(図表3参照)。こうした政府と日銀の政策支援を受けて、深刻な労働力不足と、コロナ後のニューノーマル(新常態)で生まれた新たな需要に対応するために、民間企業のソフトウェア投資(デジタル化を含む)は来年10-15%増加すると予想している(図表4参照)。

図表3 – 民間企業の純負債および総負債残高

(総資産に占める比率%)

出所:Haver、UBS

図表4 – 設備投資全体およびソフトウェア投資額

(実績およびUBS予想、前年比、%)

出所: Haver、UBS

市場にはどのような示唆があるだろうか?我々は、2021年の日本企業の利益は40%増加すると予想する中で、日本のデジタル化は来年の株式市場で投資機会の1つになるとみている。また、日本のグリーンテック企業にも注目が集まるだろう。多くの主要国がグリーンテックへと急速に舵を切る中、環境対策分野野で実績のある日本メーカーは主要サプライチェーン企業として追い風を受けることになるだろう。

2021年も日銀の政策変更はないだろう

民間金融機関の融資基準が緩和され、円相場が安定している限り、2021年も金利や円相場に影響を及ぼす大幅な金融緩和は予想していない。だが、上述のように、デジタル化、グリーンテックおよび企業再編に対する政府の設備投資刺激策に合わせて、日銀は特別プログラムの拡充を図ると予想する。日銀は現在、-0.1%の短期政策金利に加えて、1)イールドカーブ・コントロールに基づく国債の無制限購入、2)上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J-REIT)について、それぞれ12兆円と1,800億円の残高増加ペースを上限に購入、3)120兆円の企業の資金繰り支援特別プログラム、という3つの政策の柱を掲げている。この枠組みに基づき日本の10年国債の利回りは、2021年末まで0%近辺で推移するだろう。世界的なリスクオンの地合いと日銀が長期国債利回りを抑える動きから、ドルは円に対して107円まで上昇する可能性もある。

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