• 安倍晋三首相(自民党総裁)が辞任を表明した。今後の政策方針をめぐる不透明感から、短期的に市場のボラティリティ(変動率)は上昇するだろう。
  • 後任の首相は9月中に決まる見通しだ。自民党の党則では、現総裁の任期中の緊急時は両院議員総会での総裁選出が可能と定めているため、安倍首相と見解や政策課題の優先順位を共有する候補が選ばれる可能性が高い。
  • アベノミクス政策の継承が焦点となるだろう。コロナ後の世界経済に対する見通しは厳しく、足元のリフレ的な財政および金融政策が中期的に大きく転換されることはないだろう。
  • 日本株式のボラティリティは短期的に上昇するかもしれない。だが、新型コロナ危機からの復興支援を目指す現在の大規模な財政出動・超金融緩和政策は継続するものと我々は見ており、日本株式に対する強気の見方を崩していない。

安倍晋三首相(自民党総裁)は、歴代最長の連続在任日数に終止符を打ち、辞任する意向を表明した。突然の辞任報道が流れると日経平均株価は一時2.6%下落し、8月28日は前日比1.4%安で引ける一方、円は対ドルで上昇し105.6円台を付けた。

安倍首相は記者会見で、潰瘍性大腸炎による健康悪化を辞任の主な理由に挙げた。安倍首相は、日本政府はリーダー不在の政治的空白を許さず、新型コロナウイルス対応の危機管理に引き続き注力していくと強調した。報道によると、自民党は、緊急時のため、通常の党大会ではなく、両院議員総会による総裁選を9月に行う予定である。通常の党大会による総裁選では、安倍首相の対立候補を支持する党員・党友による地方票が含まれる。緊急時の両院議員総会方式には地方党員の支持者が含まれないため、安倍首相と多くの点で見解や政策課題の優先事項を共有する候補者が選ばれる可能性が高い。新総裁(首相)の任期は安倍首相の残り期間を引き継ぎ2021年9月までとなり、任期満了日前に通常の党大会による自民党総裁選が行われる。

両院議員総会で総裁が決まった後は、アベノミクス政策の継承が焦点となるだろう。報道各社は既に後任候補として、麻生太郎副総理・財務大臣、菅義偉官房長官、岸田文雄自民党政調会長の名前を挙げている(訳注:その後、麻生氏は総裁選不出馬、管氏は出馬意向を固めた模様)。コロナ後の世界経済に対する見通しは厳しく、足元のリフレ的な財政および金融政策が中期的に大きく転換されることはないだろう。日銀の黒田総裁の任期は2023年4月までであり、在任中は現在の超緩和的な金融政策が続くものとみている。財政政策については、財務省が目論む消費増税は、日本経済がコロナ前の水準に戻らない限り(我々はこれを2022年後半と予想する)その可能性は非常に低い。安倍首相の在任期間中、日本は国際社会と比較的円滑な関係を築いてきたことから、外交関係が重要な課題となる可能性がある。安倍政権は、経済および外交政策において米中間で中立的スタンスを取る傾向にあったが、次期首相がこの微妙なバランスを維持することが重要である。

安倍首相の辞任表明を受けて、今後の経済政策や金融政策の先行き不透明感から、日本の株式市場では短期的にボラティリティが上昇する可能性がある。我々は、新型コロナ危機からの復興支援を目指す現在の大規模な財政出動・超金融緩和政策は継続するものと見ている。また、日銀によるETF(上場投資信託)購入の継続や、2022年3月期の企業利益41%増益との我々の予想を踏まえ、日本株式に対して強気の見方を崩していない。我々は次の上場局面は、景気循環色の強い製造業や一般消費財セクターがアウトパフォームし、ハイテク銘柄以外がけん引役になるとみている。日本の自動車メーカーはハイブリッド技術で先行しており、エネルギー効率が高い自動車へのシフトや排出ガス規制の強化が追い風になると考える。また、日銀の資産購入や超低金利環境を考えると、日本の不動産投資信託(REIT)も依然として魅力的である。

長期的には、日本の政治的不安定性がリスク要因になるかもしれない。第2次安倍政権発足前、日本では6年間で6人の首相が「回転ドア」のように頻繁に交代する事態となった。こうした短命政権に逆戻りすれば、日本市場に重しとなるだろう。2021年10月には、次の衆議院議員総選挙が控えている。安倍首相が去った後も、与党自民党が比較的高い今の支持率を維持できるかどうかに注視が必要である。

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Daiju Aoki

青木大樹

UBS証券株式会社 ウェルス・マネジメント本部
チーフ・インベストメント・オフィス
日本地域最高投資責任者(CIO) 兼日本経済担当チーフエコノミスト


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