日本経済 金融緩和の長期化に向けフォワード・ガイダンス調整

日銀は金融政策について現状維持を決めたが、金融緩和をさらに継続するためにイールドカーブ・コントロールのフォワード・ガイダンスを一部修正した。

by 青木大樹、居林通、小林千紗 25 4 2019
  • 日銀は金融政策について現状維持を決めたが、金融緩和をさらに継続するためにイールドカーブ・コントロールのフォワード・ガイダンスを一部修正した。
  • 日銀のハト派スタンスはすでに市場に織り込み済みであり、影響は限定的だ。だが市場は依然として、2020年までに一段と金融緩和されるとみている。
  • 我々は、日銀によるさらなる金融緩和の実現性は低いとみる。むしろ消費増税後に景気が回復しインフレ率の着実な上昇が確認されれば、10年国債の利回り目標を引き上げて金融政策の正常化に踏み切る公算が大きい。だが、それは2020年第1四半期ではなく第2四半期になると予想される。

日銀は4月24、25日に開催した金融政策決定会合で、金融政策について現状維持を決定した。一方、金融緩和政策の効果を粘り強く継続するために長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の先行き指針(フォワード・ガイダンス)を一部修正した。金融緩和の延長期間が短いものになるとの市場の見方があったことから、黒田総裁は金融緩和の延長期間の「当分の間」というのは、かなり長い期間であると今回敢えて強調した。よって、日銀が早期に政策の引き締めや正常化に動く可能性は低いと我々は考えている。

だが、今回の修正が市場に与える影響は限定的だ。最近のメディアによる調査ではエコノミスト48名のうち26名がすでに2020年末までに追加緩和を予想しており、2020年末までに引き締めに転じるとみるエコノミストはわずか10名だった(図表1参照)。だが我々は追加緩和の可能性は低いと考えており、こうした追加緩和への市場期待が低下すれば国債利回りが上昇するとみている。我々の12カ月先の10年国債利回り予想は引き続き0.15-0.2%で、ドル円は足元の112円近辺での売りを推奨する。日銀の政策決定会合の詳細と我々の見方は以下の通りである。

金融政策については予想通り現状維持

日銀は当座預金残高の一部に適用される短期金利をマイナス0.1%、10年国債金利を0%程度に誘導するイールドカーブ・コントロールを維持した。また保有残高の年間増加額が国債で80兆円、ETF(上場投資信託)で約6兆円、J-REIT(不動産投資信託)で約900億円のペースで増加するように買い入れを行う。

政策金利のフォワード・ガイダンスを強化

日銀は政策金利のフォワード・ガイダンスの明確化を図り、「海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している」と明記した。我々は日銀が10年国債金利を引き上げて金融政策の正常化を始めるのは、消費増税後の景気回復の底堅さやインフレ率が着実に1%を上回っていることを確認した後とみており、その時期は2020年第1四半期ではなく第2四半期になると予想する。

信用条件の緩和、新たなETF貸付制度

日銀はまた資金供給と資産購入の実施を円滑に行うとともに、市場機能の改善を狙っていくつか変更を行った。日銀の資金貸し付け先の銀行が差し出す担保の信用条件緩和に加えて、ETFを市場参加者に一時的に貸し付ける制度も導入する計画である。こうした変更は市場におけるETFの流動性を高め、ひいては市場を歪めることなく日銀が国債やETFを買い続けることを可能にするだろう。

新たなGDPとCPI予想

日銀は2021年度の国内総生産(GDP)と消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)予想を発表した。2021年度のコアCPI上昇率を対前年比で1.6%と見込んでいるが、これは2021年度もインフレ率が目標である2%に達する可能性はないと日銀が考えていることの表れだ。また、日銀はGDP成長率予想を下方修正した。新しいGDP成長率予想は2018年度が+0.6%(前回が+0.8%)、2019年度が+0.8%(前回が+0.9%)、2020年度が+0.9%(前回が+1.0%)、今回発表された2021年度が1.2%だ。ただしコアCPI予想は概ね変わらず、2018年度が+0.8%(前回が+0.8%)、2019年度が+0.9%(前回が+0.9%、消費増税の影響を除く)、2020年が+1.3%(前回が+1.4%)、今回発表された2021年度が+1.6%である(図表2参照)。日銀は、GDPとコアCPI予想はともに下方修正されるリスクが高いことを認めている。

日銀の金融政策に対する我々の見解

イールドカーブ・コントロールのフォワード・ガイダンスを変更したため、日銀が10年国債金利の目標を引き上げて金融政策の正常化に着手するのは2020年第1四半期ではなく2020年第2四半期になると我々は考えている。黒田総裁は超低金利政策が銀行の収益にもたらす副作用について言及しなかった。2019年10月に予定されている消費増税後の景気回復と1%超のインフレ基調を日銀が確認するにはもう少し時間が必要だろう。最近のサービス価格の上昇は、2019年下期にCPIが再び上昇する前兆と受け止められる。コアCPIは当面1%を下回るが、年末までに1%を超えるというのが我々の見解である(図表3参照)。

日銀が適格担保の条件を緩和しても、国債買い入れの減少は2019年から2020年にかけて続くとみられる。日銀はすでに国債の年間買い入れ額のペースを、2016年ピーク時の80兆円から2018年には38兆円へと減らしている(2017年は58兆円)。買い入れ額は2019年末までに15-25兆円、2020年末までに5-15兆円へと一段と減少するだろう。物価上昇に再び弾みがつけば、10年国債利回りは1年以内に0.15-0.20%に到達するだろう(図表4参照)。

現在の経済・市場情勢に基づけば、追加緩和の公算は小さい。だが日銀は政策方針声明の中で、景気と物価の先行きについて懸念を表しており、最近の調査ではエコノミスト48名のうち26名が2020年末までに追加金融緩和を予想している。実際、最近の短観では企業の景況感が悪化し、2015年12月の水準に近づいている。その直後の2016年1月に、日銀はマイナス金利政策の導入に踏み切った(図表5参照)。だが今回の短観では、2019年度の想定為替レートは大企業で1ドル=108円80銭であり、足元のドル円のレンジは製造業の活動の下支えとなっている。2016年1月当時は、企業の想定レート1ドル=120円80銭に対し、実勢レートは1ドル=115円と大幅な円高に振れていた。さらに今回の短観では、深刻な労働力不足(雇用人員判断DI)と2015年12月当時と比較して底堅い設備投資計画が報告されている。当時と比べて世界経済情勢は上向いており、米国と中国の購買担当者景気指数(PMI)は節目となる50を超えている(2016年1月は50割れ)。よって、世界経済の減速とインフレ圧力の低下などを原因としてドル円が100-105円に向かうような急激な円高が進まない限り、日銀は追加緩和を検討することはないだろう。


 

青木大樹

UBS証券株式会社 ウェルス・マネジメント本部
チーフ・インベストメント・オフィス
日本地域最高投資責任者(CIO) 兼日本経済担当チーフエコノミスト



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