日本経済 消費増税の再延期はあるのか?

我々の基本シナリオは、安倍政権が2019年10月に予定通り消費増税に踏み切るものの、追加増税対策が組まれるというものだ。だが景気が想定以上に悪化するか為替が急激な円高に振れるような事態があれば、これまでと同様に消費税引き上げを延期するかもしれない。

by 青木大樹、居林通、小林千紗 17 5 2019
  • 我々の基本シナリオは、安倍政権が2019年10月に予定通り消費増税に踏み切るものの、追加増税対策が組まれるというものだ。
  • だが景気が想定以上に悪化するか為替が急激な円高に振れるような事態があれば、これまでと同様に消費税引き上げを延期するかもしれない。
  • さらに連立与党内での批判をかわすために、安倍首相が解散総選挙に打って出る可能性もある。安倍政権の支持率は上向いているため、与党が3分の2の過半数を握る公算が大きい。
  • 消費増税が先送りされれば、日本株にはプラス材料とみなされ、日本企業の追加的な利益回復要因として捉えられるだろう。

政府は2019年10月に消費税を現行の8%から10%に引き上げることを予定している。また、増税の影響を和らげるために、すでに2つの補正予算を成立させ、2019年度一般会計予算を上積みした(図表1参照)。だが、世界経済や政治をめぐる不透明性が高まっており、日本の経済情勢も悪化していることから、再び消費増税を先送りするのではという憶測が市場で高まっている。我々は目下、消費増税の延期の可能性は30%まで高まったとみている。

我々の基本シナリオは、予定通り消費増税が行われるというもので、その確率は70%とみているが、その場合昨年10月以来3度目となる追加増税対策が組まれる可能性が高い。

しかしながら、日本経済は我々がこれまで予想していた以上に悪化しているのかもしれない。最近の経済指標を受けて内閣府は近ごろ景気の基調判断を「悪化」に引き下げた。「悪化」という言葉が使われたのは、2012年12月にアベノミクスが始まって以来のことだ。さらに、米中貿易交渉の行方と影響、ブレグジット(英国のEU離脱)交渉、10月ごろには米国の債務上限問題など、世界経済と政治情勢をめぐる不透明感が高まっている。安倍政権はこれまで「リーマンショック級の出来事が起こらない限り予定通り消費税の引き上げを行う」と繰り返し述べているが、最近の景気の落ち込みと政治的な不透明感の高まりを受けて再び金融危機のリスクが高まったと捉える可能性がある。

安倍政権はこれまで2回消費増税を先送りしてきた(図表2参照)。最初は2014年11月で、増税時期を2015年10月から2017年4月に延期した。当時、日本の実質国内総生産(GDP)成長率は2四半期連続でマイナスとなり、ドル円は2014年上期に100円近辺まで円高に振れた。2回目は2017年4月から2019年10月に延期した2016年6月だが、この時は実質GDP成長率が2015年第4四半期にマイナスで、2016年1月に日銀がマイナス金利政策を導入した後の同年第2四半期も成長率はゼロ近辺だった。さらに2016年6月はドル円が製造業の想定為替レートを上回る105円を超えて円高に進んだ(図表3参照)。このため、5月20日に発表の2019年第1四半期GDPと企業および市場の景況感(7月1日に発表される次回短観)が、10月に予定通り消費増税が行われるかどうかを占う重要な試金石になるとみている(第1四半期GDP速報値は、輸入の大幅な減少により、実質年率換算で2.1%増となった。2次改定値は6月10日に公表予定)。

消費増税は財政再建を後押しするだけでなく社会保障制度の救済にもつながるため、消費増税を支持する政治家は多い。そのため消費増税が先送りされれば、政権与党(自民党と公明党)内で深刻な反発が生まれる可能性がある。憲法改正に必要な国民投票を行うには総議員の3分の2以上の賛成を必要とすることから、安倍政権は与党内に政敵を作らないことが肝心である。今のように政情が安定しているときに消費増税に踏み切れないならば、これから先も消費税引き上げは難しいと考える政治家は多いだろう。

もし仮に、再び消費増税が先送りされる場合はおそらく半年先の2020年4月であり、非常に短期的な延期になると考えている。すでに消費税引き上げ準備を整えている企業に混乱が生じることを避けるためだ。また、その場合には政権与党内での批判をかわすために、安倍政権は2019年7月に衆参同時選挙に踏み切るだろう。現在安倍政権の支持率は47%と2017年10月に行われた前回衆院選挙時よりも高い(図表4参照)。消費増税の延期が発表されれば支持率が高まる公算が大きい(国民の半数以上が現在、増税延期を支持しているため)。現状では自民党と公明党が、衆議院の議席数465のうち312議席(67%)を占める。安倍政権の支持率がさらに上昇すれば、衆議院で議席数を延ばす可能性がある。

日本株への影響

2018年下期は主に中国経済が減速したことから、日本企業の利益が圧迫されている。だがここ数カ月で在庫調整が進み、中国からの受注は底打ちしつつある。さらに、2018年度下期(10月‐19年3月)に、一部の日本企業は資産の償却に踏み切っており、仮に売上高がいまの水準で推移すれば2019年度(2020年3月期)の増益率回復につながるだろう(図表5参照)。

こうした状況下では消費増税の先送りはプラス材料とみなされ、日本企業にとって追加的な利益回復要因として捉えられる可能性がある。よって、2018年に日本株を売却した海外投資家が再び日本株を買い戻す意欲を高めるだろう。足元の株価収益率(PER)は12.5倍で、日本株の下値余地は限定的であるという我々の見方を裏付ける。


 

青木大樹

UBS証券株式会社 ウェルス・マネジメント本部
チーフ・インベストメント・オフィス
日本地域最高投資責任者(CIO) 兼日本経済担当チーフエコノミスト



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