日本 日銀も「インフレ・クラブ」に仲間入り

深刻な人手不足と中国製品価格の値上がりを背景に、日銀は2018年に待望のゆるやかなインフレ目標達成に概ね至るだろう。

05 3 2018

2018年3月5日

Chief Investment Office WM

居林通、日本株リサーチヘッド; 青木大樹、日本地域CIO(最高投資責任者)、Daiju Aoki; 小林千紗、アナリスト

  • 日本が過去25年近くにわたるデフレを克服するために、黒田東彦総裁率いる日本銀行は2013年と2014年に大規模な量的緩和策に乗り出した。深刻な人手不足と中国製品価格の値上がりを背景に、日銀は2018年に待望のゆるやかなインフレ目標達成に概ね至るだろう。
  • 日本の金融機関は株価収益率(PER)が10倍程度、株価純資産倍率(PBR)が0.65倍程度(いずれも平均)といずれも低いため、収益が来年にかけて回復すれば、バリュエーションの改善とともに株価上昇が期待できる。
  • 我々は「日本の物価上昇から恩恵を受ける企業」という投資テーマの名称を「日銀も『インフレ・クラブ』に仲間入り」に変更した。日銀は以前よりもインフレ率の加速予想に確信を持っていると考えらえる。

我々の見解

今回のレポートから、投資テーマの名称を「日本の物価上昇から恩恵を受ける企業」から「日銀も『インフレ・クラブ』に仲間入り」に変更し、次の三つの点を説明する。1) 日本で緩やかなインフレ率が続く要因は何か、2)インフレ率の上昇が日本の金融機関(とりわけ銀行)に何故恩恵を与えるのか、3)株価バリュエーションが株価の下支えになるのは何故なのか。

日本のインフレ率は、これまでとは異なる理由で再び上昇していく

日本が過去25年近くにわたるデフレを克服するために、黒田東彦総裁率いる日本銀行は2013年と2014年に大規模な量的緩和策に乗り出した。加えて、2016年初めにはマイナス金利を導入した。2013年、円安ドル高の進行と輸入品価格の値上がりを受けて日本のコア消費者物価指数(コアCPI、除く生鮮食品)は1.5%近くまで上昇した。しかし、これは長く続かなかった。2016年と2017年下期に対米ドルで円高が進んだからだ。最初のインフレ・トレンドは円安が引き金であったため、日本の家計は悲観的に反応し、消費を手控えた。

しかし2017年以降、人手不足がきっかけとなって、日本では新たなインフレ・サイクルが始まったと我々はみている。3%を大きく下回る失業率と急速な高齢化の直接的な影響で、パートタイマーの時給が過去18カ月で5%近く上昇した(図表1)。日本の個人消費支出は雇用の安定を背景に加速し、コアCPIがこれに続いている(図表2)。したがって、日本は25年近く続いたデフレ期間を終え、今回は円安といった外部要因ではなく、人手不足の深刻化による賃金上昇にけん引されてインフレ率が上昇に向かい始めていると考える。

日本がこれまでデフレ・スパイラルに陥っていた5つの要因

1) 需要を上回る生産能力を原因とする需給ギャップ、2) 中国からのデフレ圧力、3) 対米ドルでの円高、4) 終身雇用制度、5)社会の急速な高齢化。1)~3)はすでに終了したと我々はみており、4)と5)の悪影響はここ数年で弱まってきた。CPIの構成要素である財とサービスのうち、60%近くが対前年比でプラスに転じており(図表3)、これは日本がデフレからインフレに転じた力強い証拠と思われる。深刻な人手不足と中国製品価格の値上がりによって、日銀は2018年に緩やかなインフレという長期目標をついに達成するだろう。

邦銀には好影響

デフレ状況から脱却し1~2%のインフレ率が実現すれば、日本の金融機関、とりわけ銀行が恩恵を受けるはずである。図表4が示すように、邦銀にとって現在も収益の柱である貸出金利の利ざやは、2008年の世界金融危機前には1.5%だったが、現在は0.7%へと縮小した。日銀が2016年初めにマイナス金利政策を導入して利ざやの縮小に拍車がかかり、主要行は支店閉鎖や人員削減といったコスト削減策を余儀なくされた。技術革新が進めば各行とも顧客サービスを著しく損なわずに間接費を減らすことができるだろう。我々の試算によると、貸出金利が0.1%上昇すると、大手行では営業利益が8%拡大しても不思議ではない。今後予定されているコスト削減策も考え合わせると、邦銀の利益は回復に向かうと考えられる。

それでは、金利が上昇すると銀行株も上昇するのだろうか?米国の銀行が金利上昇の恩恵を受けたのと同じように、邦銀の利益と株価パフォーマンスにも同じことが当てはまると我々はみている。2016年に米連邦準備理事会(FRB)が利上げを決断して以来、米銀の株価は上昇基調をたどっている(図表5)。日本は安定したインフレ基調の始まりは25年ぶりであるため、日本の政策金利の引き上げには米国よりも時間がかかるだろう。しかしながら、投資家の見方は変わり、邦銀の株価バリュエーションも改善し始めるはずだ。株価純資産倍率(PBR)は0.6~0.7倍と欧米よりも低く(図表7)、投資家が強気になればバリュエーションには改善の余地があると我々は考える。

バリュエーションは株価を下支え

5年間の業績回復期間を経て、日本株は現在PBR1.5倍と、2012年12月のアベノミクスのスタート時よりも30%高い水準で取引されている。2018年度(2019年3月期)における日本企業の増益率は、(対米ドルでの)円高と2017年10-12月期における特別利益がなくなるため低下すると予想する。しかし、邦銀はドル円の影響を受けにくく、米国の税制改革の恩恵もほとんど受けていない。

したがって、今後2~3年で利益を拡大できそうな邦銀(と日本の不動産会社)は、日本の株式投資家が利益を期待できるセクターとなるだろう。日本の金融機関はPERが10倍程度、PBRが0.65倍程度(いずれも平均)といずれも低いため、これから来年にかけて収益回復が実際に確認されれば、バリュエーションの改善とともに株価が上昇すると予想する。さらに、銀行は比較的配当利回りが高い(平均でおよそ3%)ため、ディフェンシブ傾向の高い投資家には株価の下方プロテクションになるだろう。

出所:iStock

ベンチマーク/主要予想/投資テーマ

  • CIOのベンチマークはMSCIジャパン指数である。
  • 日本のインフレ率は今後12カ月以内に前年比1.3%に達すると予想(現在は前年比0.4%)。来年のある時点で、日銀は物価上昇を確認した後に、10年物国債の利回り目標を0%から0.2%に引き上げるだろう。
  • 我々は、日本経済が転換点に近づきつつあると考えている。日本経済の需給ギャップ(国内需要と供給能力の差)が埋まり、デフレがインフレに変わる必要条件は満たされた。また、深刻な労働力不足は、将来のインフレ圧力の明らかな兆候である。

図表1 :日本の時間当たりの賃金は上昇

日本の失業率とパートタイマーの時間当たり賃金

出所:MLHW 、UBS、2018年3月2現在


図表2:日銀の量的緩和政策導入後のインフレ第二波

出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構、BoJ、UBS
2018年3月2日現在


図表3: 財・サービス価格のうち、約60%が前年から上昇

出所:BoJ、UBS、2018月3月2日現在


図表4 : 過去10年間の日本の銀行の貸出スプレッド

平均貸出金利(%)-平均預金金利(%)

出所:BoJ、UBS、2018月3月2日現在


図表5:米国の利上げが米国銀行の追い風に

出所:ブルームバーグ、UBS、2018月3月2日現在


図表6:日本の銀行のPBRは金融危機時(2008-09年)に低下し、日本国債の利回り低下とともに低水準で推移

出所:ブルームバーグ、UBS、2018月3月2日現在


図表7:欧米の銀行に比べて低い日本の銀行のPBR

出所:ブルームバーグ、UBS、2018月3月2日現在



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