昨年6月のレターでは、ノーベル経済学者ロバート・シラーの「ナラティブ経済学」、つまり我々が自分たちに語るストーリーが経済と市場を大きく動かすという考え方を紹介した。この概念を理解することは、過去1年の相場変動をうまく乗り切る上で不可欠であったし、新型コロナ危機後の世界でも同様に重要になるだろう。

過去10年間は「低水準の長期化」、つまり低成長、低インフレ率、そして低金利の時代だったといっても過言ではない。ワクチン接種プログラムが順調に進み、財政政策の形も見えてきた今、多くの投資家は、今後はどのようなストーリーが経済と市場を形づくるのかを考え始めている。「低水準の長期化」が続くのか、新たな体制が現れるのか。

本レターでは、今後数年間は持続しても不思議ではない3つのストーリーを検討する。①「低水準の長期化」の継続、②インフレ率と金利の穏やかな上昇を伴った高成長という「狂騒の20年代」シナリオ、そして③インフレ率が急速に上昇し大幅な利上げが必要となり、経済成長が頓挫する「軽度のスタグフレーシ ョン」だ。

「低水準の長期化」と「狂騒の20年代」、そして「軽度のスタグフレーション」でも状況によっては、積極的な金融政策または財政政策による下支えがあるため、長期的にリスク資産にとってはプラスの環境と言えよう。

したがって、長期投資家の基本スタンスとしては、リスク選好型を維持し、投資を続けるのが得策と考える。小型株、金融株、エネルギー関連株、コモディティ、新興国、および高格付債に対し米ハイイールド債とシニアローンを推奨する。

同時に、年初からのパフォーマンスがこれほど好調で、好材料が次々と市場に織り込まれており、過去データに照らすと、株式市場がこれ以上の上値を望みにくい時期に入ろうとしていることも認めざるを得ない。今後はボラティリティも高まるだろう。ここ数カ月の動きから、新型コロナ危機からの回復が進むにつれて、セクター・ローテーションの動きが先鋭化する可能性もある。

どのストーリーを市場がいつ織り込むかを我々は知るよしもないが、投資家個人の資産への影響はある程度コントロールできる。つまり、今こそ次のような検討をする絶好の機会と考える。1)長期の投資計画を見直す。Liquidity. Longevity. Legacy.、つまり流動性を確保し(Liquidity)、老後に備え(Longevity)、資産承継を準備する(Legacy)いう我々の資産管理アプローチを用いると、資産目標に合わせた投資ポートフォリオを組むことで、短期のボラティリティに惑わされない。2)さまざまな主要テーマ、地域、資産クラス(オルタナティブ投資を含む)にわたって分散投資を行う。リフレ・トレードと長期的なグロース株(成長株)をバランスよく組み合わせれば、市場のストーリー「低水準の長期化」が変わっても、セクターのローテーションの流れに乗り損ねる可能性は低い。3)ボラティリティを利用して分散投資し、資産を守ることを検討する。ポジションを直接保有する以外の方策を検討するのも有効だろう。

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