ちょうど1年前のレターで、ノーベル経済学者ロバート・シラーの「ナラティブ経済学」の考え方を紹介した。シラー氏は、我々が自分達に語るストーリーは、どのような経済統計よりも経済と市場をけん引することができると考える。今日において、投資家が目に見えないウイルスと歪んだデータの狭間でこの難局を切り抜けるには、ストーリーが鍵となる。

市場は少なくとも3つの進行中のストーリーに直面している。その3つとは「FRB」、「第2波」、そして「米国大統領選挙」だ。どのストーリーが最も影響力があり、安定的に続くのだろうか?報道を見ていると、ウイルス感染拡大の第2波への不安と米大統領選挙が市場にとって最も影響力がありそうな印象を受けるが、実は中期的に最も影響が続くのはFRBのストーリーだ。よって、投資家にできる最も重要なことは、投資を続けることであり様子見ではないと考える。資産クラスでは、我々は株式とクレジットがどちらも有望とみている。

実のところ、FRBがこれほど政策の意図をあからさまに表明したことはかつてない。今のFRBは金融緩和による理論上の長期的な政治・経済的効果よりも、一般労働者を助けることに注力している。もちろん、それが資本の所有者の利益にもなることも見込んでいる。パウエル議長は、金融緩和政策により資金が市場に流入し相場を押し上げることで、経済格差が拡大する可能性も念頭に置いているだろう。事実、先週の記者会見では次のように述べている(以下、発言要約)。「資産価格が高過ぎると考えて、尻込みしてしまうと、…我々が実際に、そして法的に奉仕すべき人々はどうなるのか?我々は、雇用の最大化と物価の安定を図らなければならない。それが我々の使命だ。…利上げの検討すら考えていない」。

残り2つのストーリー(新型コロナ感染拡大の第2波と米国大統領選挙)については、景気回復の早さと強さに対する投資家の希望と不安が報道によって振り回され、相場変動が大きくなるだろう。しかし、結局は、FRBの努力がリスク資産を今後も支えると我々は考えている。セオドア・ルーズベルト大統領の言葉を借りるなら、FRBは「棍棒をもって、穏やかに話す(speaks softly but carries a big stick)」からだ。

この3つのストーリーが進行するなかで、さまざまな投資機会が生まると考える。FRBのストーリーは株式だけでなく、米国とアジアのハイイールド債や米ドル建て新興国国債、プライベート・クレジット戦略などのクレジットを支えるだろう。第2波への不安のストーリーが行き過ぎだったことが判明すれば、米国の中型株、英国市場とドイツ市場、経済活動再開でメリットを受ける銘柄への追い風になるだろう。最後に、米国大統領選挙のストーリーは、11月の投票日が近づくにつれて相場変動の要因になる可能性が高い。市場は、増税と規制強化の可能性よりも、追加の景気刺激策の見通しを重視するからだ。しかし選挙は、FRBは大統領選まで利上げをせず、共和・民主両党がさらなる景気刺激策を支持する可能性が高いという、市場にとって一種の保険にもなっている。

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