UBS House View Weekly パンチボールを片づけるのではなく、空にする

先週、欧州中央銀行(ECB)は量的緩和(QE)プログラムを年内に打ち切ると発表し、米連邦準備理事会(FRB)は25べーシスポイント(bp)の利上げを実施した。政策金利を据え置いた日銀は、主要国でQE終了を発表していない唯一の中央銀行となった。

18 6 2018

2018年6月18日

Chief Investment Office WM

今週の動き

  • OPECは増産に動くか?石油輸出国機構(OPEC)は、米国による対イラン制裁再開やベネズエラの 生産減による原油供給の減少分を補うための生 産量引き上げを検討している。世界最大の石油 輸出国であるサウジアラビアは、増産は「避けら れない」としている。ただ、増産となった場合で も、その規模が明らかとなるのはOPECの会合が 予定される今週後半だ。原油価格の急騰を回避 するような決定(増産)が行われれば、市場の リスク志向が強まると予想される。また、総合 インフレ率の上昇を懸念する向きにとっても朗報 となるだろう。
  • 米国の追加関税措置により報復関税の応酬が 再加熱?米国は先週、中国からの輸入品に対す る追加関税措置を敢行した。これは、EU、カナダ、 メキシコに対し鉄鋼の輸入関税を適用したことに 続くものだ。米国の貿易パートナーが新たな関税 措置で対抗する構えを見せるなど、事態悪化の リスクの高まりを示す新たな兆候に、今週は注目 したい。
  • 引き締め政策に市場はどう対応するか?先週は 米連邦準備理事会(FRB)が追加利上げを実施し、 欧州中央銀行(ECB)が量的緩和政策を年内に終 了する方針を決定した。これに対し、債券利回りは 世界的に低下した。ただ今週は逆の動きが確認さ れるかもしれない。米金利の上昇を受けた新興国 市場からの資金流出にも注目したい。ブラジルの 中銀は今週、政策金利水準を発表する。トルコと アルゼンチンは緊急利上げに踏み切った。

今週の要点

  1. ECBはタントラム(癇癪)なしのテーパリング(量的緩和縮小)を実現
    ECBのドラギ総裁は、2013年にFRBが量的緩和縮小に言及し始めた際に観測された利回 りの急激な上昇を招くことなく、緩和政策に終止符を打つことができそうだ。ドラギ総裁が 量的緩和の年内終了を発表した6月14日、ドイツ10年国債利回りは5ベーシスポイント (bp)低下し、ユーロは対米ドルで1.8%下落した。1日の下落幅としては2016年6月以降の 最大だ。こうした市場の反応の一因となったのは、投資家の関心がバランスシートの拡大終 了ではなく、金利を少なくとも来年夏まで現行水準に据え置くとのECBの方針へと向かうよう ドラギ総裁が巧みに仕向けたことだ。ECBが金融政策を徐々に正常化することで最終的には ユーロが下支えされると我々はみている。だが、足元で弱含んでいる一部のユーロ圏経済 データが好転し、米10年国債利回りがこれ以上大きく上昇しないことが明確にならない限り、 米ドルに対するユーロの持続的な上昇は難しいだろう。

    要点:我々はユーロ/米ドルをニュートラルとする。グローバル株式はオーバーウェイトに据 え置く。
  2. FRBの先回りは禁物
    FRBは景気刺激策を徐々に解除するという方針を継続しており、先週は今年2度目となる利 上げを行った。米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの金利見通しを示すドットチャート では利上げペースの加速が予想されており、中央値から読み取れる年内に見込まれる利上 げの回数は計4回と、3月時点の3回から上昇した。これと呼応する形で、FRBによる失業率予 想が3.8%から3.5%へと引き下げられている。ただ、こうした利上げ見通しの修正を受けて米 10年国債の魅力が後退するとは考えられない。今回のFOMC会合にも同国債の利回りはほ とんど反応しなかった。米10年国債はすでに利上げサイクルを完全に織り込んでいると我々 はみている。また、今回のドットチャートの見通しは、1四半期に1度の利上げを見込む我々の 予想と一致する。原油価格の上昇を背景に総合インフレ率は今夏3%を超える見通しなが ら、FRBはエネルギー価格に関連した消費者物価の変動を重視しないと述べていた。

    要点:我々は米10年国債をオーバーウェイトとする。
  3. 北朝鮮リスクが後退し、貿易摩擦懸念が深刻化
    米朝首脳会談では、北朝鮮の非核化、査察、ミサイル技術、経済制裁に関する合意について、 何ら詳細は得られなかった。このため、S&P500種株価指数や韓国総合株価指数(KOSPI)は 会談後のニュースに反応しなかった。とはいえ、友好的印象で終わった今回の会談は、『火と 怒り』に満ちた昨年のトランプ米大統領の口調とは対照的である。このほかにも、イタリアのポ ピュリズム政権がユーロ支持を表明したり、OPECがベネズエラとイランの生産減による供給 不足分を補う可能性が高いとするなど、政治面で良好なニュースが聞かれた。一方で、貿易摩 擦の深刻化という、世界経済に対して最も広範囲に影響する地政学的脅威は高まっている。 米国は500億米ドル相当の中国からの輸入品に対し追加関税を課すとの警告を実行に移す 予定である。我々は全面的な貿易戦争を回避できるとみているが、これがテールリスク(確率 は低いものの、発生すると巨大な損失をもたらすリスク)であることに変わりはない。

    要点:我々はグローバル株式をオーバーウェイトとし、分散投資により地域的な地政学リス クの影響を軽減できると考える。ただし、ドルに対する円のオーバーウェイトや、米10年国 債のオーバーウェイトなど、反景気循環的ポジションも保有する。

投資家の注目点

  • 引き締め懸念 EPFRグローバルによると、6月13日までの1週間で世界の債券ファンドから55 億米ドルの資金が引き揚げられており、1週間の流出額としては2月半ば以降最大となった。 中銀の金融引き締めに対する懸念を反映した動きと思われる。

深読み パンチボール (景気刺激策)を 片づけるのではなく、 空にする

先週、欧州中央銀行(ECB)は量的緩和(QE)プログラムを 年内に打ち切ると発表し、米連邦準備理事会(FRB)は25べ ーシスポイント(bp)の利上げを実施した。政策金利を据え 置いた日銀は、主要国でQE終了を発表していない唯一の 中央銀行となった。

これらの決定を受けて、米国10年債とドイツ10年債の利 回りは低下し、欧州と米国の株式は上昇し、ユーロは1日 としては2016年6月のブレグジット以来最大の下げ幅を 記録した。

FRBとECBの決定を詳しく見ると、短期的な反応は妥当であ る。ECBのドラギ総裁は2013年のようなテイパータントラム (癇癪)を起こさずに、QE終了を発表するという困難な仕 事を成し遂げた。各国中央銀行はパンチボールを継ぎ足し
続けることはないが、完全に片づけてしまうつもりもないこ とを示唆している。

  • ECBが今年中に債券購入プログラムを終了させること は予想されていたが、いまやその時期が経済統計次第 となっている。ECBが「少なくとも2019年の夏の終わり」 まで利上げしないと明言したのは意外だった。ドラギ総 裁は保護主義の台頭など経済見通しへのリスクにも触 れ、欧州の最近の経済統計の不振が長期にわたる可能 性について慎重な姿勢を示した。
  • FRBの利上げもおおかた予想されており、市場への影響 は限られていた。FRBは今年の成長率予想を2.7%から 2.8%に引き上げる一方、失業率の予想を3.8%から3.6% に引き下げて、米国経済の好調ぶりを認めた。しかし、 今回の利上げをきっかけに利上げのペースが速まるとは 示唆せず、2%のインフレ目標を一時的に上回る状況に注 意すると述べている。今年の利上げ回数予想(中央値)は3回から4回に増えたものの、わずか1人の方針転換が「利 上げ加速」につながった。我々も、この見通しは我々の予 想と一致する利上げペースの引き上げとみている。

足元の反応を越えて中期的には投資家にどのような影響 が見込まれるだろうか?

経済統計を踏まえたECBのQEの縮小とFRBの段階的な利 上げが市場を不安定にする可能性は低い。一方、世界の ファンダメンタルズ環境は依然として明るく、経済も企業 収益も順調に拡大している。その結果、世界の株式は続伸 が予想される。

ECBの政策転換により、欧州各国の国債利回りはいずれ 上昇し、米国との利回り格差は緩やかに縮小すると思われ る。最終的には、依然として米ドルに対して割安なユーロの 下支えとなり、ユーロ/米ドルの購買力平価は現在の1.16 から1.29に上昇する見通しである。ECBのQEの打ち切りは ユーロの持続的な上昇に必要な条件の1つだが、欧州経済 の伸び悩みが解消され、イタリアの政治的リスクが後退し、 米国10年債利回りがこれ以上大きく上昇しないという確 証も必要である。我々は戦術的資産配分でユーロ/米ドルを 現在ニュートラルとしている。

最近では月額50億ユーロに達していたECBによる社債購 入が打ち切られることで、欧州の債券市場から重要な支 援材料が取り除かれる。世界の景気が成熟する中、債券 へのエクスポージャーが戦略的ベンチマークを超えてい る投資家には、エクスポージャーの再検討を勧める。

Mark Haefele
Global Chief Investment Officer WM


結論

おおかたの予想通り、先週、FRBは利上げを実施し、ECBは 危機対策としてのQEを打ち切る方針を発表したが、日銀 は政策金利を据え置いた。ECBが予想より長期にわたり 金利を据え置くと明言し、FRBが米国経済に冷静に対処 したことから、市場はリスクオンの反応を示し、ユーロは 下落した。中期的には世界の株式は続伸し、ユーロ圏の 国債利回りは上昇し、ユーロは回復すると予想するが、我 々はユーロ圏の債券については慎重姿勢で臨む。


地域的な見解 中国:ストーリーの裏のストーリー

「要するに、債券に比べて中国のオフショア株の保有 コストは上昇しており、今後数年はその状態が 続くと思われる。」

今年に入ってからの中国に関するメ ディアの報道は、米国の制裁関税と 米国の対中貿易赤字の縮小を求める トランプ大統領の強硬姿勢に関する ニュースが大半を占めてきた。しかし、 水面下では、もっと重要なストーリー が繰り広げられている。中国経済はよ り持続的なモデルに徐々に移行して おり、その過程で新経済セクターの 収益と中産階級を押し上げている。 経済の急激な減速懸念は根拠がなか ったことが明らかになり、中国のマク ロ指標は健全な状態が続き、安定に 向かっている。

その結果、オフショア株式市場(MSCI チャイナ指数)はアウトパフォームし、 昨年はトータルリターンで世界をリー ドし(+55.3%)、今年に入っても他の地 域をリードしている(年初来+8%)。 国外で上場している中国企業の企業 収益は2017年に25%と大幅に増加し たが、今年も2ケタ台の伸びが見込ま れており、株価も追随すると予想され ている。支援的な世界のマクロ経済と 妥当なバリュエーションが、この強気 の見通しに弾みをつけている。

株価にとってさらに追い風となるの が、中国株への外国資本の流入額が 増加していることだ。2つのストックコ ネクト(株式相互取引)の1日の取引枠 が4倍に引き上げられ、MSCIが中国本 土市場上場の人民元建て株式(A株) をベンチマーク指数に組入れた結果、 中国株への相対エキスポージャーが非常に低い外国の資金が中国の資本 市場にアクセスしやすくなっている。 こうした動きが今年中に目立った変化 をもたらすことはないかもしれないが、 センチメントを後押しして中長期的に はプラスの影響が生じると思われる。

中国の経済力の恩恵は人民元にも及 んでおり、今年に入って地域の通貨 の中で最も健闘している(対米ドルで +1.9%)。ここにきてモメンタムは弱 まったものの、今年下期には米ドルが 軟化する一方、人民元は他通貨に対 して安定的に推移すると予想される。 このため、米ドルに対して人民元のオ ーバーウェイトを推奨する。我々は今 後6–12カ月の米ドル/人民元は6.3 を予想している(現在は6.4前後)。

しかし、すべてがバラ色というわけで はない。中国政府が経済のレバレッジ 解消を進める中、ハイイールド債を発 行する信用力の低い発行体は資金を 確保し債務を返済することに苦戦して いる。特にシャドーバンキング活動に 対する政府の取締りに伴い流動性が 低下し、オフショア債のリスクセンチメ ントが後退している。現在、JPモルガン の中国ハイイールド債インデックスは アンダーパフォームしており、今後数 カ月でこの状況が好転する可能性は 低い。

そこで、株式市場が2年連続で債券市 場をアウトパフォームする見通しだが、 このことは2つの資産クラスの相対的な魅力にどう影響するだろうか?言い 換えれば、株価が上昇し債券価格の 下落が続く中で、中国の債券は株式よ
りも妙味が高まりつつあるだろうか?

MSCIチャイナの益回りと固定利付債 の指数であるJACIチャイナの利回り のスプレッドは、2015年末の約4%、 2016年末の3%前後から、現在では 0.4%に縮小している。同様に、MSCI チャイナの益回りと米国10年債の利 回りのスプレッドも2015年末の8%前 後、2016年末の約5%から、現在では 3%程度に縮小している。中国のオン ショア株式の益回りとオンショア債券 の利回りのスプレッドも、程度こそ小 さいものの縮小している。

要するに、債券に比べて中国のオフシ ョア株の保有コストは上昇しており、 今後数年はその状態が続くと思われ る。したがって、セクターと発行銘柄を 厳選した慎重な投資手法を推奨する。 総合的には、我々は地域の戦術的資 産配分において中国株をオーバーウ ェイトとし、IT、消費財、金融セクター を選好する。中国の債券については慎 重姿勢を取り、ファンダメンタルが健 全な銘柄に重点を置き、市場が安定 化するまで低格付け銘柄の入れ替え を待つことを提案する。

Kind regards,
Thomas Deng

市場動向

 

 

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House View レポートの紹介

  • CIO Alert 米長短金利逆転も、景気後退は差し迫っていない

    中国の小売売上高と鉱工業生産高が予想を下回り、ドイツの第2四半期国内総生産(GDP)がマイナス成長となったことを受けて、景気への懸念が高まった。製造業を中心に数カ月にわたる世界経済減速のトレンドは、なおも継続している。米10年国債利回りは約12年ぶりに2年国債利回りを下回った。長短金利の逆転(逆イールド)は過去7回の景気後退の前に起きており、不況入りの前兆ともされている。 更に読む

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    主要国/主要市場の成長率、インフレ率、金利、通貨、コモディティについてのUBS CIOの予測を毎週更新。 更に読む

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  • House View Weekly 長期化する米中貿易紛争に新たな展開

    今年は、米中貿易紛争と米連邦準備理事会(FRB)の金融政策の動向が市場を支配してきた。G20首脳会議での米中首脳会談で両国が一時休戦入りし、FRBによる利下げ観測が高まると、6月と7月は世界の株式が上昇した。しかし、その後株価は一時6%も下落し、現時点では7月につけたピークを3.5%下回っている。 更に読む

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