• 中国ニューエコノミー大手への規制リスクに対する懸念の高まりは、次第に和らぐだろう。中長期的に見れば、IT大手は業務効率性、事業規模、巨大なユーザー基盤を背景に引き続き市場シェアを維持するものと考える。
  • 中国経済は今年、消費を軸に力強いスタートを切った。中国当局も政策支援を性急に打ち切ることはないと表明している。
  • 株式については、構造的成長と世界的なリフレ環境および経済再開の両面を捉えてグロース(成長)セクターと景気循環色の強いバリュー(割安)セクターへの分散投資を推奨する。債券については、クレジット・スプレッドが縮小しているため、利回り7~14%が見込める年限1~2年の不動産ハイイールド債の一部が魅力的だと考える。また、世界同時景気回復によってコモディティ(金を除く)と人民元も下支えされるだろう。

規制はIT市場の成長を阻むか?

中国当局は、国内IT大手の巨大化を看過できなくなってきた。規制当局は巨大IT企業を視野に入れた独占禁止法違反の取り締まり強化に乗り出しており、昨年後半からデジタル業界に対する新たな規定やガイドラインを相次いで公表している。

こうした動きはニューエコノミー・セクターに大きな重石となっている。監視の標的とされるネット大手の株価は2月中旬以降15~25%下落しており、MSCI中国指数を13%押し下げた。問題は、次に何が起こるか、そしてこうした環境下でどのようなポジションを取るべきかである。

独占禁止法の3つの焦点

独禁法をめぐる中国政府の取り締まりには、大きく3つの目的があると考えられる。
1) 競合他社の参入を阻んだり、プラットフォームの利用顧客を差別的に取り扱うアルゴリズムの取り締まり。政府は、企業の独占的行為を規制するガイドライン草案を昨年11月に公表し、今年2月7日に正式に発表・施行した。規制当局は4月10日、中国Eコマース大手に対し、同社に出店する企業に他の電子商取引業者との取引を禁じる独占契約の締結を強制したとして、182億3,000万人民元(約3,050億円)の罰金を科すと発表した。独禁法違反の罰金としては過去最高額となる。規制当局はまた、電子商取引、フードデリバリー、フィンテック、オンライン旅行業等に従事するその他のネット企業34社に対して、1カ月以内に社内調査を実施し、不適切な行為を是正するよう命じた。

2) IT大手による金融業務に対する規制強化。中国当局は4月12日、中国大手フィンテック企業に対し、親会社のEコマース大手から分離して金融持株会社に再編するよう指導したことを明らかにした。当局は昨年11月初旬に同フィンテック企業の新規株式公開(IPO)を延期している。同社はまた決済業務と貸出業務との不正な接続の解除や、高レバレッジの抑制も求められた。

昨年11月には、オンライン小口融資に関する新規制草案が公表され、金融持株会社によるシステミック・リスクの防止を目的とした「金融持株会社監督管理試行弁法」も施行された。1月20日には中国人民銀行がノンバンク決済業界での独占禁止に向けた規制案を公表した。これらの規則は、インターネット企業による金融サービスの提供を制限し、金融機関との共同融資による過度なレバレッジと集中リスクを抑制することを目的としている。

3) 消費者データの収集・利用を監督。昨年12月にモバイルアプリを通じた個人情報収集に関する規制指針案が公表され、今年3月22日に正式に発表、5月1日に施行された。中国政府は、中国人民銀行などの主導でデータバンクを創設し、巨大IT企業が収集した個人情報を監督する可能性がある。これが実行に移されると、政府による個人情報の管理が強化され、個人情報の所有に係る法律の改正が必要になるだろう。

今後の動向

こうした動きは、世界的に広がる巨大IT規制の流れと呼応する。インターネット大手は、特にコロナ禍以降の経済においてその市場支配力を強めており、各国は企業を規制する新法制定に乗り出している。だが、他国の状況と同様に、中国投資家の視線は、企業業績への短期的な影響よりも、総じて長期的なファンダメンタルズに向けられている。

さらに、こうした規制の目的は、市場の濫用やシステミック・リスクを防ぐことであり、国内のイノベーションを阻害することではない。中国は米国と技術覇権争いを続けていることから、テクノロジー・セクターの持続的成長を妨げるわけにはいかないだろう。さらにまた、中国のインターネット・プラットフォームの規制をめぐる議論は実は何年も前から行われている。まず初期は成長が優先され、成熟期になって規制というのが中国流のインターネット・プラットフォームに対する発展モデルである。

従って、規制当局による圧力はしばらく続く可能性はあるものの、現在各国で行われている内容を超えるような厳しい規制や、特定の企業や業界の成長を損なうような措置が取られるとは考えにくい。

また、顧客のデータ保護に対する監督強化や顧客獲得アルゴリズムの制限、フィンテックの運用体制の再編などがIT大手の業績見通しを一定程度押し下げる可能性はあるものの、当面は平均を上回る成長を維持するとの我々の見通しに変更はない。

規制強化の中でのポジション構築

たしかに長引く規制リスクは、規制遵守費用の増加や収益化機会の減少につながりうるため、短期的にはIT大手の業績に影を落とす可能性がある。しかし、中長期的に見れば、IT大手は、その業務効率性、規模、そして巨大なユーザー基盤を背景に、市場シェアを維持する公算が大きい。

デジタル・エコノミー・セクターは目先、値動きが大きい展開が予想されるが、規制引き締めリスクはほぼ株価に織り込み済みとみており、一部の銘柄についてはバリュエーションが低下した局面を買いの好機と捉えることができるだろう。デジタル銘柄の中では、バランスシートが強固で、キャッシュ・フローが安定的で、利益が見通しやすい企業を推奨する。

テクノロジー・セクター以外では、景気循環色の強いバリュー株が有望と考える。バリュー銘柄は2020年10-12月期(第4四半期)決算が堅調な結果となり、2021年度見通しについても、中国および世界の経済再開やリフレ環境を踏まえて強気の見通しを示した。特に、建設資材、消費サービス、素材および銀行といった景気循環色の強い一部のバリュー・セクターが、リフレ環境による追い風を引き続き受けるものと見込まれる。

中国市場全体としては、年末までの利益成長率を10%台後半と見込んでおり、中国株式リターンについては10%台半ばを予想する。よって、我々は、中国を引き続きアジア地域で推奨する市場の1つと位置づけている。