• 今回、2022 年9 月の為替レートの予想を追加する。通貨市場の基本的な見方は変わらず、来年9 月の時点でも、米ドルおよび金融政策の正常化を進める国の通貨が強含むと予想する。
  • 我々は米ドルに対する見通しを従来の弱気から中立に変更し、来年以降は強気を見込んでいる。以下で、有効と思われる戦略を提示する。
  • 今後は金融緩和の正常化に向けて第一歩を踏み出しつつある中央銀行に焦点を移していく。

先週、我々は米ドルの見通しを従来の弱気から中立に変更した。さらに、2022年についても米ドルへの強気見通しを従来より若干引き上げた。2022年9月は米ドル高がさらに進み、ユーロ/米ドルは1.13まで(ユーロが)低下、米ドル/スイス・フランは0.97まで上昇する可能性が高いと予想する。ドル円も116円まで上昇、米ドル/人民元も6.65まで米ドル高が進むとみられる。こうした長期見通しの根拠として、米連邦準備理事会(FRB)が今後、超緩和政策の正常化に向けて動き出すと見込まれる一方で、世界経済成長はピークを迎えると予想されることが挙げられる。米国の金利上昇から米ドルが買われやすい展開にななるが、ユーロなどの輸出国通貨を支えていた世界経済のモメンタムは減速し始める可能性が高い。通貨市場においては、これまで米ドルが弱気から中立、そして最終的に強気へと向かう「米ドルサイクル」に沿った戦略を推奨していたが、足元の経済・金融動向により、サイクル全体のスピードが幾分速まった。

米ドル高の良い理由と悪い理由

我々が米ドル見通しを弱気から中立に変更した理由は、主に2つある。1 つ目はFRB が金融緩和の縮小方針を示したこと、2つ目は新型コロナのデルタ変異株によって世界成長見通しに新たな不確実性が生まれていることだ。これら2 つの要素は、相関性は強くないものの、どちらも米ドルの下支えとして作用する。市場では米国の景気過熱への警戒感が浮上しており、FRBが緩和縮小の準備を加速すれば米ドル高が進展する可能性が高い。一方で世界成長の減速懸念により米国の債券利回りは低下しており、安全資産としての米ドルの需要が高まっている。

現時点では米ドル見通しはまだ中立

安全資産と米国経済の「一人勝ち」という2 つの要因が重なると、複合的に米ドルを押し上げる可能性がある。米ドルは通常、リスク回避ムードが市場に広がった場合に上昇し、米国金利の低下がこの動きを示唆する兆候とされてきた。また、米国のみが成長して投資マネーを引き付ける場合も米ドル高になる。現在、米ドル高の材料となる両方の要因が強まっているとみられる。ただし、その度合いは小幅にとどまっているため、ユーロ/米ドルは差し当たって横ばいで推移すると見込まれる。FRB が1年以内に利上げに踏み切る可能性は低く、2 年以内の利上げの公算も小さい。一方、ワクチンは新型コロナの感染抑制に有効であることが確認されており、世界的にワクチン接種が進めば高い効果が期待できるだろう。

経済環境に関する想定

2022 年9 月時点の予想値は、主要国においてコロナ禍が収束方向に向かいつつあり、さらにFRB およびその他一部の中央銀行がこの先金融緩和策の正常化に転換するとの見通しを根拠としている。いち早く金融緩和の縮小方針を示しているのは米国、カナダ、英国、ノルウェー、ニュージーランドであり、これらの国の通貨が次のサイクルを主導するものと見込まれる。また、米国のインフレ率は、当面はトレンドを上回る可能性があるが、最終的には落ち着く見通しである。さらにまた、ユーロ/米ドルの適正水準は、最近の米国の物価上昇で、1.33 まで(ユーロ高方向へ)上昇したが、ここからさらに大きく上昇する可能性は低いとみている。加えて、我々の米ドルに対する強気の見方は、欧州中央銀行(ECB)がマイナス金利政策を長期的に維持するとの見方にも基づいている。マイナス金利は当面、ユーロ、円、スイス・フランの重石となるだろう。ユーロ圏、日本、スイスの中銀が1年以内に利上げを行い、マイナス金利政策を解除する可能性は低い。このため、この3つの通貨に対する米ドル高は、次の景気サイクルにわたり続くかもしれない。一方で、マイナス金利が数年にわたり続いたことから、これらの中央銀行が政策の正常化に動き出す何らかの兆しが見られた場合は、これら3通貨は反動で大きく上昇する可能性もある。

推奨戦略の見直し

我々はこれまで、強い世界経済成長がユーロ、主要輸出国、そして資源国通貨を支えるとの見通しから、通貨の分散化と積み上がった米ドルポジションの解消を推奨してきた。実際、世界的にリフレ・トレードが活発化し、欧州など輸出国の経済が想定以上の回復を示すと、米ドルは予想どおり下落した。年末に向けて予想を上回る経済成長の波が再び到来し、リスク通貨が米ドルや円に対して上昇すると予想する。こうした予想を上回る経済成長局面は、米ドルを買い増し、より持続的な米ドル高に備える好機となるだろう。

次の戦略に移行する方法

足元の米ドル高の影響で、ユーロ/米ドルは1.18を割り込み、英ポンド/米ドルは1.39以下に下落したが、これは、米国の長期金利低下によるもので、一時的な動きだと見ている。市場では、テクニカルを中心としたポジション調整とモメンタム取引が活発化している。我々は下落局面ではなく、上昇局面でユーロ/米ドルと英ポンド/米ドルを売ることを推奨する。以前は分散化を進めるために押し目買い戦略を勧めていたが、現在は「戻り売り」戦略を推奨する。

分散投資を引き続き推奨

我々は通貨の分散化戦略を引き続き推奨する。バランスの取れたポートフォリオを重視していた局面では、ユーロ、英ポンド、スイス・フラン、日本円、豪ドルの5通貨を均等加重したバスケットに焦点を置いていた。これらの流動性の高い通貨は、世界輸出が回復した時に良好なパフォーマンスを見せた。しかしながら現在は、これら通貨の上昇余地はほとんど残されておらず、景気循環を重視する投資家は他の通貨に注目すべきだと考える。一方、長期的視点の投資家には分散化戦略が引き続き有効なアプローチとなろう。次のサイクルでは、緩和政策の正常化に向けて動き出す中央銀行の通貨に買いが集まると考える。とりわけ米ドル、英ポンド、カナダ・ドル、ノルウェー・クローネ、ニュージーランド・ドルが注目されるだろう。対照的に、マイナス金利通貨は今年から来年にかけてサイクルが進む中で売られやすい展開となる見通しだ。新興国通貨については、予想される米ドルの動向を踏まえ、通貨をより厳選してポジションを取ることを勧める。例えば、原油市場の強い見通しと健全なファンダメンタルズから、ロシア・ルーブルは対米ドルで上昇するとの見方を維持する。また、欧州の経済活動の再稼働から恩恵を受けると見られるポーランド・ズロチの対ユーロでのポジションも有益だろう。アジアでは、2022年初めにシンガポール金融管理局(中央銀行に相当)が引き締めに動くとみられることから、シンガポール・ドルが有望とみる。

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