米中合意を受けて株式をオーバーウェイト

米国と中国は13日、貿易交渉で合意に達したと発表した。米国は、9月に発動された1,200億米ドル相当の中国製品に課せられていた関税率を15%から7.5%に引き下げ、15日に予定されていた1,600億米ドル相当の中国製品に対する追加関税の発動をしないことで合意した。約2,500億米ドル相当の中国製品に対する25%の関税率は据え置かれる。その見返りに、中国は米国の製品およびサービス、特に農産物の購入拡大で合意した。

今回の発表は、貿易交渉が単なる発動延期ではなく、初めて実際の関税率引き下げにつながったことに意味があると我々は考える。すでに関税措置は「ピーク」に達していたとも考えられ、今回の合意が段階的な関税率引き下げのスタート地点になる可能性がある。ここから、景況感の改善と設備投資の回復に牽引される形で、株式相場が一段と上昇する可能性がある。高格付債と比べて株式は割安なことから、6~12カ月間において株式のアウトパフォームが予想される。

我々は「Year Ahead 2020」で、選択の年には政治的な決定が変動要因になると指摘した。米中和解の兆しが世界の製造業セクターと消費者センチメントに対する下振れリスクを緩和する中、我々はポートフォリオにリスク資産を追加することでこれに対応する。グローバルな戦術的資産配分において、新興国株式のオーバーウェイトを追加し、米ドルに対する豪ドルのアンダーウェイトを終了する。また、長期に及ぶ中央銀行の低金利政策やリスクセンチメントの改善から恩恵を受けるキャリー戦略を継続する。具体的には、米ドル建て新興国国債をオーバーウェイトし、為替ではインド・ルピーとインドネシア・ルピアをオーバーウェイトする。

株式では、新たに新興国株式をオーバーウェイトとし、米国と中国の株式市場を推奨する。また、ユーロ圏株式よりも米国株式を推奨する。ユーロ圏は景気動向に敏感な景気循環株の回復による恩恵を受けるかもしれないが、中国による米国製品の購入拡大が他の輸出国に打撃を与える恐れがあるからだ。さらに、日本株式は株価に景気回復があまり織り込まれていないという理由から、ユーロ圏株式よりも日本株式を推奨する。

米中が貿易合意に達したものの、2020年は政治的決定が市場に大きな影響を及ぼす年になる見通しは変わらない。短期的には、合意に含まれること、含まれないことの詳細が明らかになるにつれて、株価の変動は大きくなるだろう。MSCIオールカントリー・ワールド指数が10月初旬以降8%上昇するなど、市場はここ数週間ですでに上昇している。関税率引き下げは、現段階では一部に限定されている状況だ。

次の注意点は何か?

米中が知的財産権や強制技術移転の問題で合意に至ったことは励みになる。合意内容と実行方法については詳細が待たれる。中国市場の開放など難しい問題は残っているが、知的財産権と技術移転で最初の合意に達したことは、予想以上の進展である。中国の米農産物購入拡大は、米政権にとって重要な焦点だった。米政府高官によると、中国は240億米ドルという2017年の基準に、今後2年で年間160億米ドル上積みして、年間400億米ドルにした上で、これを500億米ドルにまで拡大する取り組みを行うことで合意した。全体的には、中国は農業、工業、エネルギー、サービスの4セクターの輸入を2,000億米ドル増やす約束をしたと米国側は明らかにしているが、中国政府高官は 具体的な数字に言及していない。選挙戦が始まる中、トランプ大統領がこの合意内容に満足し、貿易に関する「勝利宣言」をするかどうか注目している。宣言が出されれば、近いうちに貿易摩擦が再燃する確率は低くなりそうだ。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)も、近日中に米議会で批准の採決が行われることからも、貿易を巡る先行き不透明感は薄れている。

15日に発動予定だった関税の見送りは、米消費者信頼感に悪影響が及ぶリスクを緩和した。今回の一部関税率引き下げを契機に、数回にわたる関税引き下げが始まる可能性がでてきた。また、経済的な恩恵が広がり、貿易摩擦の影響を受けてきた企業の景況感と設備投資が大きく改善される見通しも高まった。我々は、少なくとも設備の買い替え・建て替えへの企業支出が上向く可能性が高いと見ている。

現在、企業センチメントと経済統計との差は極めて大きいため、センチメントの大幅な回復でこの差が縮まる余地がある。これは、短期的な市場モメンタムにとって重要な要因である場合が多い。世界の製造業購買担当者景気指数(PMI)は夏以降改善しており、貿易合意がこのモメンタムの継続を後押しするだろう。その結果、2020年の成長見通しは当初の予想よりわずかに上向き、GDP成長率と企業利益が予想を上回る可能性が高まっている。また、製造業の改善によって経済成長率がトレンドを取り戻しても、政策による景気の下支えは、しばらくの間継続するだろう。

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