CIO Alert 米中貿易協議:下落リスクに備えて資産配分を調整

米中は9日夜に初回となる通商協議を行ったが合意には至らず、日本時間10日午後1時1分から2,000億米ドル相当の中国からの輸入品に対する関税の引き上げ(10%から25%)は発動された。我々は過去2-3カ月、相場上昇に伴い、カウンターシクリカルな(反景気循環的な)ポジションを追加し、株式の配分を徐々に減らしてきた。不透明感が強まりつつある現段階では、引き続きこの戦略を維持する。

09 5 2019

ポートフォリオのリスクを管理するために、我々はスイス株式に対する新興国株式のオーバーウェイトを終了し、米ドルに対する豪ドルのアンダーウェイトを開始する。米中は9日夜に初回となる通商協議を行ったが合意には至らず、米東部時間10日午前0時01分(日本時間10日午後1時1分)から2,000億米ドル相当の中国からの輸入品に対する関税の引き上げ(10%から25%)は発動された。我々は過去2-3カ月、相場上昇に伴い、カウンターシクリカルな(反景気循環的な)ポジションを追加し、株式の配分を徐々に減らしてきた。不透明感が強まりつつある現段階では、引き続きこの戦略を維持する。

交渉の経過

中国の劉鶴副首相率いる中国代表団はトランプ大統領と米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表と通商協議を行うために、関税引き上げまでに残り数時間というタイミングでワシントンに到着した。米国の高官は中国が過去数カ月の交渉で合意した約束を破ろうとしていると批判し、一方の中国は米国に対し、関税引き上げを発動することがあれば、報復措置に出ると警告していた(米国が関税発動後、中国政府は、報復措置を取らざるを得ないと発表している)。とは言え、トランプ大統領は中国の習近平国家主席から「素晴らしい書簡」を受け取ったとも述べており、協議が何らかの合意に至る可能性も示唆した。

今後の相場の方向性を占うのは以下の点となる。

  1. 新たな追加関税(10%から25%)は発動されるのか(発動済み)
  2. 追加関税による中国の報復措置の内容
  3. 貿易交渉は継続されるのか、完全に決裂するのか
  4. トランプ大統領は新たに3,250億米ドル相当の中国製品に対する関税引き上げを警告したが、実際に引き上げ準備は開始されるのか
  5. 米国は自動車に対する輸入関税の引き上げを実施するのか
  6. 金融・財政政策の反応
  7. グローバル経済への波及的影響はあるか

リスクの緩和

ここ1週間の動きは米中貿易関係の不安定さを浮き彫りにした。米中が関税合戦を再び始めればグローバル経済や株式市場への脅威となるだろう。貿易政策の不透明性は最近の世界貿易や鉱工業生産の鈍化の一因となっており、関税が引き上げられた状態が続けば、世界的に企業利益にも影響を与えるだろう。

よって、我々のポートフォリオに2つの調整を加えた。スイス株式に対する新興国株式のオーバーウェイトを終了し、米ドルに対する豪ドルのアンダーウェイトを開始する。新興国市場のバリュエーションは依然として魅力的だが、グローバル経済の成長に対する貿易交渉の影響に関する不透明感が、短期的にセンチメントの重石となるだろう。一方、スイス株式は、過去と比べるとバリュエーションは依然割高ではあるが、スイス株式の持つディフェンシブな特性は、不安定な相場における相対的なパフォーマンスの下支えとなるだろう。また、最近の企業業績も底堅い。

豪ドルは、リスク回避が強まると下落する傾向があるシクリカルな通貨だ。オーストラリアは中国との貿易の比重が大きいことから、豪州準備銀行(RBA)が金利を引き下げる可能性もある。つまり、豪ドルはリスク・オフのシナリオでは下落が予想されるが、リスク・オンでも大幅には上昇しない可能性があるため、現時点ではアンダーウェイトとする。

今週の株価下落で、リスクは織り込み済みか?

米国の株式市場は先週金曜日の過去最高値水準から3%程度下落、中国の株式市場も同期間で8%下落した。しかし、昨年の大幅上昇から見ると、下落幅はまださほど大きなものではない。今後もし中国が強硬な報復措置を打ち出し、交渉が決裂し、追加関税がさらにエスカレートするような事態になれば、さらに下落するリスクがある。このリスク・シナリオでは、米国株式は10~15%程度、中国株式も15~20%下落すると予想される。最も影響を受けるのは、テクノロジー、資本財、エネルギーなどの貿易関連セクターだろう。また、安全通貨とされる円が上昇する一方で、ユーロ、豪ドル、新興国通貨は下落する可能性が高い。

これ以上リスクを縮小しない理由

我々の基本シナリオでは、米中間の貿易交渉は最終的に一定の妥結に至るとの見方に変更はない。米中は両国とも合意を目指す姿勢を強く示しており、我々は交渉が完全に決裂するとは予想していない。中国は米国側が妥結を急いでいると解釈し、交渉ペースの修正を図りたいのではないかと我々は考える。もしそうならば、中国側の報復措置は緩やかなものになるだろう。同様に、トランプ大統領も、2020年の米大統領選挙を前に、米国株式市場の大幅な下落や景気へのダメージは避けたい。一方、米連邦準備理事会(FRB)と中国の金融当局も、根強い貿易協議の先行き不透明感による経済への悪影響を緩和する措置を取ることが可能である。しかも、25%に関税が引き上げられた場合でさえ、グローバル経済に大きな影響が及ぶ可能性は低い。

さらに、今週の株式市場の下落で、ある程度のリスクはすでに織り込まれている。この先、中国が米国に慎重な対応を示し、協議の最終決着に向けた新たなスケジュールが示され、米国側がさらなる追加関税引き上げの準備を取りやめれば、市場には安心感が広がるだろう。

これらを踏まえ、我々は、下落リスクに備えてポートフォリオを調整しつつも、現時点では完全にネガティブなスタンスに転じることはない。戦術的なポジションでは、グローバル株式、日本株式、および新興国国債に対するオーバーウェイトを、ユーロ圏株式と英国株式のアンダーウェイト、さらにカウンター・シクリカルな(反循環的な)ポジションとでバランスを取り、全体としては、リスクに対してほぼ中立の姿勢を取っている。

投資家へのアドバイス

先行きボラティリティ(相場の変動)の高まりが予想され、不透明感も根強いため、長期的成長が見込める銘柄に投資を継続しつつ、短期的なリスクにも備える必要がある。我々のレポート 「準備は万全に:計画し、守り、育てる」では、上昇した場合に利益を確保しつつ下落リスクにも備えるための投資アイデアを紹介している。特に、債券投資におけるリスクを軽減する手段としては、景気循環による影響を受けにくい「グリーン・ボンド」が有効と考える。また、優良高配当銘柄の成長機会、および、サステナブル投資や長期投資テーマ投資も注目戦略である。

グローバルな戦術的資産配分では、リスク・オンのポジションを保有しつつ、下落リスクに備えるため、日本円のオーバーウェイト、S&P500種株価指数のプロテクション、イタリア2年国債のアンダーウェイトなど、カウンター・シクリカルなポジションでバランスを取っている。これらのポジションは、最近の下落局面でプラスのパフォーマンスを示している。

我々は引き続き、リスク調整後リターンの見通しが良好となるようポジションの調整を図り、随時、最新の情報を提供していく。




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