UBS Perspectives 日本版 2013年 vol.14

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UBS×日経CNBC 特別セミナー2013

「日本経済復活論“アベノミクス”の行方〜政策の理論と現実〜」

第2次安倍内閣発足後、デフレからの脱却を目指す「アベノミクス」が好感され、株高・円安相場が続いた。一方、株価が乱高下を繰り返すなど不安定な様相も見せ、世界中がその動向に注目している。日本経済の現状と展望をどう読み解くか。7月13日に都内ホテルで開催され、経済政策に精通する3人の識者が議論を交わした日経CNBC主催、UBS協賛の特別セミナーを振り返る。

第1部 基調講演「日本経済復活論を語る」

アベノミクス3本の矢の評価は「A」「B」「E」

アベノミクスの円安効果を受けてトヨタ自動車の2014年3月期の営業利益が2兆円規模になると見込まれるなど、輸出企業は好調だ。また、設備投資が6四半期ぶりに増加に転じたことが最大の押し上げ材料となり、内閣府が9月9日に発表した2013年4~6月の実質国内総生産(GDP)は前期比年率3.8%増と、速報値(2.6%増)から上方修正された。

第1部ではアベノミクスの評価や今後の展望について、安倍晋三首相のブレーンで内閣官房参与を務める浜田宏一・米イェール大学名誉教授が語った。まず、アベノミクス3本の矢である「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」を、浜田氏は順に「A」「B」「E」と評価。安倍首相の名字にかけたユニークな評価の内容はこうだ。「黒田東彦新総裁を迎えて大胆な金融緩和が行われ、株式や為替にはっきりとその効果が表れました。失業率や有効求人倍率の改善など、我々の生活レベルでも明るい兆しがありますから、金融緩和の評価は『A+』と言ってもいいくらいです。次に財政出動に関しては、変動相場制の下では円高の要因となるため、景気浮揚策としてあまり期待できません。その意味から個人的に『B』。最後の成長戦略ですが、そもそも政府ができることには限りがあります。うまくいけば有効に機能するかもしれませんが、ポイントは政府が“何をやるか”ではなく“何をやめるか”に集中すること。ですから、期待(Expectation)を込めて『E』と評価しました」

従来の産業政策では、日本は成長できない

黒田新体制の下で矢継ぎ早に打ち出された金融政策。日銀は2年程度で「物価上昇率2%」達成を掲げているが、果たしてそれは可能なのか。「十分可能だと思います。ただ、生産や雇用、消費などの経済成長が達成できれば2%というインフレ目標にこだわる必要はないでしょう」。国際通貨基金(IMF)は7月9日、2013年の世界経済見通しを更新。日本は異次元金融緩和などが評価され、2.0%の成長が見込まれると予測された。この数字を浜田氏は「妥当」と分析する。「技術水準が世界の第一線にある日本は、経済成長の天井にさしかかっており、潜在成長率が減退するのはやむを得ないことです。また、金融政策で紙幣を刷っても生産力が向上するわけではありませんから、今後日本の潜在成長を伸ばす鍵となるのは第3の矢『成長戦略』です。ただ注意すべきなのは、従来の産業政策では成果は出ないということ。すなわち、政府が特定の産業を選んで補助金を出したり、税制優遇を行うようなやり方では意味がないのです。公的資金を投入しながらも経営破綻したエルピーダメモリを例に挙げましょう。エルピーダは日本で唯一のDRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)メーカーとして誕生し、一時は 世界の半導体業界の主要企業として君臨しました。しかしリーマン・ショック以降、円は対ドルで30%も高くなり、一方で韓国ウォンは対ドルで30%ウォン安になってしまった。要するに、エルピーダは韓国勢との競争において60%ものハンデを背負うことになったのです。いくら技術的に優れた独占企業であっても超円高下での競争には勝てず、結果的に破たんに追い込まれました。冒頭で私が、政府にできることは限られていると申し上げたのはそういう意味なのです」

国が何をしてくれるかではなく、自分たちに何ができるか

安倍政権には来春の消費税増税というハードルが控えているが、浜田氏は「政府の公式見解ではない」と前置きした上でこう語る。「橋本龍太郎内閣時代、3%から5%に増税したことで日本経済は深刻なデフレに陥りました。それを見ても、今後2年で10%に上がることのショックは相当大きいはずです。ただ、日本の財政状況が厳しいのも事実ですから、景気を見て慎重に判断する必要があります。また、企業の経済活動の下支えとして法人減税も検討してはどうでしょうか」。最後に、浜田氏は日本経済復活への道のりをこう示す。「かつてケネディ大統領が演説で“Ask not what your country can do for you. Ask what you can do for your country”と述べました。すなわち、国が何をしてくれるのかを期待するのではなく、自分に今何ができるかを一人ひとりが考えること。さらにこう付け加えましょう。“Ask what your country can undo.”つまり、国は不要な規制を止めてほしいということです。国民も、企業も、政府も、それぞれが痛みを分け合いながら日本の未来を築いていく。その先頭に立ち、国家国民のために責任を果たすことのできるリーダーは、安倍首相以外にいないと私は思っています」

イェール大学名誉教授、日本国内閣官房参与 浜田 宏一 氏

1936年、神奈川県出身。
東京大学法学部・経済学部卒。
東大とイェール大で経済学修士、イェール大で経済学博士取得。
東大経済学部教授、イェール大経済学部教授、理論・計量経済学会(現日本経済学会)会長、内閣府経済社会総合研究所長、中央大学大学院総合政策研究科特任教授などを歴任。
瑞宝重光章受章。2012年12月、第二次安倍内閣で内閣官房参与に就任。
専門は国際金融論、ゲーム理論。

第2部 徹底闘論「アベノミクスは本当に日本に希望をもたらすのか?」

異次元金融緩和が日本経済にもたらした光と影

第2部では、伊藤元重・東京大学大学院経済学研究科教授と野口悠紀雄・早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問が登壇し、アベノミクスに対して異なる見解を持つ2人が持論を交わした。伊藤氏は第1の矢「金融緩和」をこう評価する。「アベノミクス以前の20年間はデフレで需要が落ち込み、物価も下落し、家計と企業が守りに入ったため貯蓄が伸びました。しかし、その貯蓄は投資ではなく国債購入、すなわち国の借金の穴埋めに使われていたのです。将来のために投資をしない国に明るい展望は持てません。大胆な金融緩和はリスクも伴いますが、デフレマインドを払拭した点で大きな意味があります」。対する野口氏の見方は懐疑的だ。「日銀が異次元金融緩和を実施して以降、マネタリーベース(日銀が供給する通貨)は増加しましたが、マネーストック(経済に流通する通貨)はさほど変化していません。教科書的に考えれば、マネタリーベースが増えると信用創造が生じてマネーストックも増えるはずなのに、それが起きていない。すなわち異次元緩和は空回りだということです。もう一つの問題は、2%の物価上昇率目標の導入後、名目金利が高騰したこと。日銀は金融緩和で金利を下げると言いながら、一方でインフレ率を高めて金利を上げている。この矛盾にマーケットが混乱し、株価が乱高下しているのです。もし2%のインフレ目標が達成されて金利がさらに上昇した場合、国債利払い費が倍増し日本経済は破たんするでしょう」

成長戦略の鍵を握るのは、新産業の創出と民間投資

浜田宏一氏の基調講演に続き、第2部ではキャスター、エッセイストの福島敦子氏がモデレーターを務め、パネルディスカッションが行われた。

安倍政権は、緊急経済対策を含む大型の補正予算など機動的な財政出動を実施しているが、伊藤氏はこう指摘する。「目先の補正予算だけでなく、団塊世代が75歳以上に達する将来を見据え、膨張する医療費にどう備えるのか議論するべきです。政府は、2015年度までに国と地方のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の赤字幅を10年度比で半減するという目標を立てましたが、その達成には来春の増税が避けて通れないと思います」。増税に対する野口氏の見方はこうだ。「消費税率を5%引き上げても、財政収支上はあまり効果がありません。焼け石に水なのです。本当に財政を健全化するには税率を30%にする必要がありますが、今の日本では現実的に無理でしょう。しかし、仮に政府が増税をやめる決断をした場合、日本国債の格付けは間違いなく下落します。そのくらい世界は日本の財政に注目していますから、政府は明確に方向性を示すべきです」。次に第三の矢である成長戦略について野口氏はこう語る。「新興国の工業化に伴い日本の製造業の縮小は不可避であり、それを前提に新たな産業モデルを創造するべきです。まずは生産性の高い産業を生み出し、その上で成長戦略に組み込むこと。また今後は、成長産業における人材確保も課題になります」。伊藤氏によれば、成長戦略の成否を分けるのは「民間投資」だという。「例えば既存の火力発電設備は古いものが多く、新規投資のメリットは大きいはず。先日には、東京電力管内の茨城県で中部電力が火力発電設備を新設するという報道があったほか、東京ガスや新日鉄住金、JXグループなどによる投資案件も報じられました。この変化は国内の投資を一層喚起すると予想されます。やはり主役は民間であり国民ですから、アベノミクスで生じた変化の兆しを我々の生活や未来につなげることが大切です」

東京大学大学院経済学研究科教授 伊藤 元重 氏

1951年、静岡県出身。
東京大学経済学部経済学科卒業。
米国ロチェスター大学経済学博士号取得。
96年より現職。総合研究開発機構(NIRA)理事長も務める。
産業構造審議会新産業構造部会部会長など、政府審議会のメンバーとして政策の実践現場でも活躍。

早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問 野口 悠紀雄 氏

1940年、東京都出身。
63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年イェール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。
一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2005年より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。
2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問。

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