UBS Perspectives 日本版 2012年 夏号 vol.11

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2012年5月 緊急特別セミナー

「日本の財政リスクの現状と再建への展望」

日本の政府債務残高は2012年に約1,124兆円となり、対GDP比で約236%に達する計算だ。世界で政府債務が経済規模の200%を超えて持ちこたえている国はほかにない。「持続不能な水準」と国際通貨基金(IMF)も警鐘を鳴らす日本の財政問題。一橋大学経済研究所の小黒一正氏とUBSウェルス・マネジメント・リサーチのエコノミスト 尾形和彦氏が現状認識についてそれぞれの分析を解説し、財政再建への展望をディスカッションしたセミナーの要旨を再録する。
*IMF推計値(2012年4月版)

小黒 一正 (おぐろ かずまさ)

一橋大学経済研究所 准教授。
大蔵省(現財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、(財)世界平和研究所主任研究員などを経て、2010年8月より現職。
内閣府・経済社会総合研究所客員研究員、経済産業研究所コンサルティング フェロー、内閣府・経済社会構造に関する有識者会議 制度・規範WG「世代 会計専門チーム」メンバー。専門は公共経済学。
著書に、『2020年、日本が 破綻する日』など。

尾形 和彦 (おがた かずひこ)

UBS証券株式会社 ウェルス・マネジメント部
UBSウェルス・マネジメント・リサーチ エコノミスト。
邦銀に入行後、外資系証券会社に移り、機関投資家向けのエコノミストとして活躍。 日経エコノミストランキングにおいて6年連続トップ10入り(1999年-2004年)。
その後、米国系の資産運用会社のエコノミストを経て、2010年から UBSに。
セルサイド、バイサイド両方の経験を生かした分析の深さ、的確さに定評がある。

危機的状況だが、この先10~15年での日本の財政破綻の可能性はきわめて低い - 尾形氏

日本がこの先、デフォルトに陥る可能性はあるのか?まず、尾形氏は国家の財政破綻の定義をこう述べる。「破綻とは対外債務が支払い不能になることと定義づけられますが、『国家』と『政府』は概念が異なります。『国家』には家計や企業も含まれるのです。民間部門の貯蓄動向を見ると、家計の貯蓄こそ減っていますが、その分企業の貯蓄が増え、銀行の預金は右肩上がりに増えています。この貯蓄拡大が国債を吸収し続けているのです。確かに政府の公的債務残高は膨大ですが、国家全体としては依然、貯蓄超過構造にあり、海外のお金に頼る必要が全くないのです。実際、日本の貯蓄超過を反映する対外純資産(債権-債務)の額は250兆円にのぼり(表1)、これはGDPの約50%に相当する規模で、金額としては世界一です。対外純資産はドル・ベースで引き続き増加傾向を維持していますが、その源泉となっているのが経常黒字です。貿易収支こそ、東日本大震災の影響で赤字に転落しましたが、所得収支は巨額の黒字を維持しており、これが経常収支を下支えしています」。所得収支黒字は世界一の対外純資産に対する投資収益を表し、そのリターンは毎年12~15兆円にのぼる。この経常黒字構造がそう簡単に崩れることはないと尾形氏は指摘する。「対外バランスに問題がなければ、国家は破綻しません。問題が国内に限定されるのであれば、政府と日銀がいかようにも対処できるからです。政府は徴税権を持っているので、政治的に増税を断行し、財政状況を変えられます。さらに日銀による財政ファイナンス、国債購入がいくらでも可能です」。5月に格付け機関フィッチが日本国債を2段階格下げしたにも関わらず、影響は限定的であり、リスクを嫌うマネーが避難先として日本国債に流入する状況が続いている。こうした中、日本の財政危機に伴って危惧されるリスクが、国債の暴落だ。しかし尾形氏はそのシナリオにも否定的だ。「市場ではむしろ国債が不足しています。日銀がどんどん保有を増やしているため、外国の投資家が『買いたいのに買えない』状況が続き、金利は9年ぶりの低水準に下がっています。一夜にして、この状況が一変するとは考えにくい。それでも、ある時点で国債が急激に売られると仮定しましょう。日本国債は国内で90%以上保有され、保有者は銀行が約40%を占め、あとは保険や年金、日銀です。たとえば、ある銀行が継続保有に不安を持ち、10兆円の国債を売却するとします。他に購入するものが無ければ、売却代金の10兆円は銀行名義の日銀の当座預金口座に入金され、日銀のバランスシートには『負債』として記載されます。日銀は資産と負債をバランスさせるために、国債を10兆円買い増す必要が生じ、結果として国債は買い支えられるのです。この構造からも、突発的に国債が暴落するということは考えにくい。確かに、国債が売り込まれれば金利が上昇し、その結果、政府の利払い費は増え、財政はさらに悪化します。たとえばギリシャ国債のように海外投資家の保有率が高ければ、金利上昇分は海外に逃げてしまいますが、日本国内を循環するのであれば、消費者や家計が恩恵を受け、消費ブームが起きる可能性すらあります。それでも政府にとって都合が悪ければ、金利上昇分を増税し、政府に返してもらえばいい。以上、トータルな観点から見て、少なくとも10年〜15年の単位での日本の財政破綻はない、というのが私の見解です」

早ければ2017年、遅くとも2027年に日本経済は重大な局面を迎える可能性 - 小黒氏

対GDP比約236%に達する日本の膨大な政府債務。小黒氏は過去の事例を引用しながら、そのインパクトを指摘する。「国際通貨基金(IMF)元チーフエコ ノミストのケネス・ロゴフ(現ハーバード大学教授)らが最近出版した『国家は破綻する』という研究書籍は世界的に注目を集めましたが、その共著者のカーメン・ラインハート(メリーランド大学教授)はこの研究の基礎となるデータをチャートブックで公表しています。このチャートブックを見ると、過去に公的債務が対GDP比200%を超えた事例は概ね11例です。国債の一部デフォルトやインフレーションで帳消しにしたケースまで『破綻』と認定すると、再建できたのはわずか2例に過ぎないのです(表2)」。では、なぜ日本は今日まで危機的状況に陥らなかったのか?小黒氏は『金利低下ボーナスの恩恵』を指摘する。「これまでは金利がずっと下がってきたため、高金利の過去の国債を金利が低い国債に借り換えることによって、国債の利払い費を抑制できたのです」。今後、日本の財政リスクを考える上で、最も注視すべきはこの利払い費の急増だと小黒氏は語る。「すでに金利低下ボーナスは終了しています。仮に現在の1%前後の低金利が継続しても、利払い費はこれから増加ペースを強め、約10年間で約8兆円増加すると予測されています(日本総研・推計)。現在約44兆円の財政赤字は、今後10年間で利払い費の増加分8兆円に社会保障費の増加分13兆円を加えて、65兆円以上に拡大する可能性が高い。国債が65兆円以上も発行される事態となった時、果たしてさばききれるのか?それが問題です」。国債の2010年の増加額(時価)はおよそ48兆円。そのうち、14〜15兆円は海外勢に買われてきた。このボリュームは国内の銀行セクターとほぼ同額だ。「日本国債は海外の投資家から資産の避難先として買われてきました。2008〜2009年のリーマンショックしかり。現在の欧州危機しかり。しかし今後、彼らの経済が回復していけば、日本国債を購入する理由が低下します。その時、果たして国債を国内で全部消化できるでしょうか?」新しく発行された国債は中央銀行、民間銀行、生保などに買われ、とりわけ銀行セクターが吸収してきた。「銀行は家計の預金と企業の貯蓄を原資として企業に貸し出していますが、集まっている預金を100とした時、貸し出しが30では70も資金が余ってしまいます。預金と貸し出しのギャップ70を『預貸ギャップ』と言いますが、この寝かしておいても仕方がない資金の運用目的で国債が買われてきたのです。しかし今後、高齢者の貯蓄の取り崩しや若年層の社会保障負担等による手取り収入の減少が起こり、家計の貯蓄率はどんどん減少していきます。近い将来、預貸ギャップも新規国債発行額を下回ることが予測され、国内金融機関による国債購入は限界を迎える可能性が高いのです。現在の消費増税法案が成立しない場合、その時期は早ければ2017年、甘く見積もっても2027年です。さらに、何らかのショックで市場の期待が変化し、金利が4%~5%に跳ね上がれば、現在約9兆円の利払い費も4~5倍に膨らんでしまいます(厳密には「国債の平均償還年限=約7年」であるから7年間で4~5倍)。金利の上昇局面で政府が増税や歳出カットを含めた財政再建プランを提示できれば、金利は一時的に落ち着くかもしれません。しかし、異なる印象を市場に与えれば金利は3〜4%に張りついてしまうこともありえる。そこまでいくと、どんな再建プランを出しても、もうマーケットは信任しないでしょう。いち早く思い切った手立てを打たない限り、日本の未来はきわめて厳しいものになるでしょう」

日本の財政再建に「消費税」が果たす役割は?

両氏の15分間のショートプレゼンテーションを挟み、日本の財政再建について対談が行われた。財政再建の処方箋として増税は適切なのだろうか?小黒氏が見解を述べた。「増税をするか、社会保障を削減するか。そのミックスでいくかという議論はありますが、社会保障費を削減できないケースを考えれば増税しかない。法人税をあまり高率にすると企業は日本を出て行ってしまい、経済に悪影響を与える可能性があります。では、所得税はどうと言えば、三人で一人の高齢者を支える状況の中で働く世代に過重な負担がかかってしまう。やはり消費税は有力な財源です。では、どれくらいの消費税率が必要か?アトランタ連銀のブラウン氏と南カリフォルニア大学のジョーンズ教授の推計によれば、2017年に一気に消費税率を引き上げるという仮定で、社会保障の水準を維持したまま公的債務(対GDP)を安定化させるために必要な税率は33%になります。さらに、引き上げを2022年に5年遅らせた場合、必要な消費税率は37.5%に上昇すると指摘しています。1年間の改革先送りで必要な税率は約1%上昇するわけです。引き上げの時期を遅らせれば遅らせるほど、最終税率が高くなることを意味しています。最終的な税率をどこにおくか、これは極めて重要です。もちろん、実体経済を考えれば、15年など一定の期間で段階的に上げていくのもひとつのやり方でしょう。ただ、30%超の増税を行っても、各世代の受益と負担が概ね一致し、払った分が戻ってくるように社会保障の給付設定ができれば、さほど経済に悪影響を与える結果にはならないと私は考えています」。一方、尾形氏は、経済成長にも視点を向ける。「政府債務の対GDP比230%超の要因は、債務が伸びた以上に、成長が低かった点にあります。日本は債務の削減よりも成長を実現しなければならない。人口の減少、高齢化という中でどれだけ成長を見いだせるか?確かに難しい面もありますが、全く不可能ではないでしょう。たとえば、1990年代後半、格下げの危機にあった米国はクリントン政権下で財政黒字を実現しました。ただ、必死の財政再建によって実現できたのかと言えば、そうではなく、ちょうどそのころにIT革命という技術革新が起きたのです。結果としては、まぐれかもしれませんが、長い間、米国は規制緩和を進め、新しいビジネスを生み出す環境づくりに注力してきました。だからこそ、こうした成果が挙げられたのです。今、米国の財政状況は再び厳しくなっていますが、ここでまた『シェールガス革命』が起きています。このように、技術革新によって成長を高めるということは決して不可能ではないのです。また、私は消費税増税を財政再建策ではなく、成長戦略として捉えています。具体的には、毎年消費税を1%ずつ15年にわたって引き上げるという方法があると考えています。『消費税が今、5年先よりも5%安い』という事実は日本に眠る巨額なマネーを刺激します。住宅、自動車等の耐久財など高額商品購入の前倒しが発生し、企業の設備投資、不動産投資も活性化します。インフレ期待を人工的に導入することで経済が活性化し、税収も相乗効果的に増えます。消費税の論議はネガティブだという風潮がありますが、やり方しだいで最大の景気浮揚対策にもなりえるというのが私の持論です」

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