UBS Perspectives 日本版 2012年 夏号 vol.11

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The Shale Gas Revolution

米国で進むエネルギー革命 米ドル上昇を下支え

米国を取り巻くエネルギー事情は、シェールガス(頁岩層(けつがんそう)から採取される天然ガス)とタイトオイル(またはシェールオイル。シェールガス同様に岩盤層に含まれる石油)資源の商業採掘によって大きく変わろうとしている。米エネルギー情報局(EIA)の展望によれば、2020年までに米国の国内石油生産は、日量100万バレル以上も増加する見込みだが、これによって、石油輸入が同量減る。
それだけではない。米国はシェールガス開発により天然ガスの純輸出国になるのだ。
米国で進行する"エネルギー革命"は、2008年に始まった米ドルのユーロに対する回復基調を今後一層下支えし、海外エネルギー依存率の低下により、米ドルと石油価格の負の相関も解消されるだろう。

米国の石油生産増大と、天然ガス輸出国への転換

革新技術の導入によるシェールガスとタイトオイルの採掘拡大は、米国のエネルギー収支に大きな変化をもたらしている。EIAの「2012年の米国の年間エネルギー見通し」等のデータを見れば、米国内の石油生産量の増加と石油輸入量の減少は明らかだ(図1参照)。米国内の原油生産量は、1986年の900万バレル(日量)から2007年に510万バレルにまで減少したが、現在では再度570万バレルに増えている。これを後押ししたのが、タイトオイル油田の開発だ。同時期に米国の原油の輸入量は減り始め、効率の改善、エタノール等の石油以外の液体燃料の利用拡大と相まって、原油の輸入は2007年の1,070万バレル(日量)から現在の900万バレル前後にまで下がっている。EIAは今後10年の間、現在進行中のメキシコ湾の海底資源開発に加え、タイトオイルの開発の進展によって、2020年に米国内の原油生産は日量670万バレルまで増大すると予測している。現在のレベルから、日量100万バレルもの増産は飛躍的と言えよう。また、EIAは天然ガスについても、米国が2021年までに天然ガスの輸入を終え、全面的に輸出国に転換すると予測している(図2参照)。2011年、米国の天然ガスとLPG(液化天然ガス)の輸入は250億ドルにのぼった。EIAによれば、米国の天然ガスの年間生産量は2010年の21.6兆立方フィートから2035年には27.9兆立方フィートへの増大が見込まれる。一方、年間消費量は2010年の24.1兆立方フィートから2035年には26.6兆立方フィートの増加にとどまるとみられる。なお、米国の天然ガス生産に占めるシェールガスの割合は、2010年の23%から2035年には49%まで高まることが予想されている。

経常赤字の減少に大きく貢献

米国の石油の純輸入の減少と、天然ガスの純輸出国への転換は、米国の経常赤字にも大きな影響を与えるだろう。図3が示すように、米国の経常赤字は2006年には8,000億米ドル前後であったが、金融危機以降に縮小し、2009年には4,000億米ドル以下にまで半減し、現在は石油およびその他石油製品の純輸入がその大半を占めている。2011年末の時点で、米国の石油の純輸入による貿易赤字は年間3,000億米ドルをやや上回る水準で、GDP比2.3%である。EIAのデータによれば、石油収支の不均衡は2013年から2014年にかけてピークに達し、GDP比2.5%前後となる。その後、2020年までに同2.0%に下がり、2030年には同1.5%前後まで下がる公算だ。石油の純輸入による貿易赤字がGDP比3%を占めていた2008年から、大幅な改善が期待できるのである。もちろん、EIAの予測は今後の輸入原油価格の動向に大きく左右される。EIAは輸入原油価格の著しい高騰を予測しており、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の昨年の名目価格である1バレルあたり85-110米ドルから、2016年には平均価格が実質ベースで120米ドル、2035年までには145米ドルに上昇すると見込んでいる。しかし、このような石油価格上昇を織り込んだとしても、米国の石油純輸入による赤字(GDP比)は2013-2014年をピークに縮小に転じ、その後10年間減少していくと予想されているのだ。金融危機以降、米国の経常赤字は2006年のGDP比6%から2011年には同3%に半減した。米国のエネルギー革命は、1990年代以降、米国の課題であった経常赤字削減をさらに前進させ、収支を均衡させるほどのポテンシャルがあるのだ。


エネルギー資源採掘法の革新的発明は、為替相場にも長期的インパクトをもたらすのか?

アジア新興国、南米、欧州で悪化する石油収支

通常の天然ガス田の場合は地下の空間にガスが溜まっているが、泥岩の一種である頁岩(シェール)に含まれるガスは深い岩盤のすき間に薄く広く存在するため、掘り出すのが困難だった。しかし米国で高圧の水と砂で層内に人工的な割れ目をつくり、水平に穴を掘ってパイプラインを設置する技術が確立。生産量が飛躍的に増加した。

米国の年間実質経済成長率を2.8%、欧州(含む英国、ノルウェー)を同1.7%、日本を同1.0%をやや上回る低成長と見込み、アジア新興国を同5%超、ラテンアメリカを同4%とすると、先進国の石油消費量はおよそ横ばいで推移すると推定されるが、アジア新興国およびラテンアメリカでは著しく拡大するとみられる。米国の石油消費量は現在の日量1,900万バレルから2035年までに同2,000万バレルに増えるに過ぎない。しかしアジア新興国は、現在の日量2,200万バレルから今後20年間に同3,600万バレルに、ラテンアメリカは現在の日量800万バレル超から2035年には同1,000万バレル超になるだろう。石油の輸入量については、米国は消費量の停滞と国内生産の増加が相まって、今後20年間で、石油の主要輸入国としては唯一、純輸入量を減少できると予想され、現在の日量約900万バレルから2035年までには同750万バレルに減ると見込まれる。その一方で、欧州の石油純輸入は、同1,000万バレルから同1,200万バレル前後に増加し、アジア新興国に至っては同1,400万バレル前後から同3,000万バレル近くまで増えるとみられる。石油収支における米国とその他諸国(欧州、日本、アジア地域)の差の拡大は、経常収支および為替市場に長期的かつ著しい影響を及ぼすことになる。2011年に米国と欧州はそれぞれ石油の純輸入に3,000億米ドル超を費やし、一方アジア(除く日本)は4,500億米ドル超を投じている。2035年までに、米国の石油の純輸入による赤字は年間6,000億米ドルをやや超える程度にとどまるのに対し、欧州の同赤字は1兆米ドル前後に達するとみられ、アジア新興国に至っては2兆5,000億米ドルという驚くべき水準になるだろう。石油の純輸入による貿易赤字がGDPに占める割合で見れば、米国の改善傾向は歴然としている。今後数年間で対GDP比2%をやや上回る時点でピークに達し、その後は減少していくと予想されるのだ(図4参照)。

米ドルと石油価格の負の相関は低下へ

過去10年間、石油価格が上昇する一方で米ドル下落の傾向が続いてきた。これは図5の米ドルと原油価格(WTI)の推移からも明らかである。エネルギー価格の上昇は、これまで米ドルの価値に対してマイナスの影響を与えてきた。さらに、FRB(米連邦準備理事会)がコアインフレ率(食品およびエネルギー価格を除いたインフレ率)だけを重視しているのに対し、ECB(欧州中央銀行)やその他通貨当局は総合インフレ率の動向を注視している。このため、FRB以外の中央銀行は、エネルギー価格の上昇に対応して金利を引き上げる状況となっている。また、産油国のソブリン・ウェルス・ファンドが米ドル以外の通貨に分散して投資していることも、米ドルの価値を押し下げる要因となっている。しかし、今後数年間でシェールガスとタイトオイルの開発がさらに進展し、米国の石油の純輸入が大きく減少することが予想され、それに伴い、米ドルと石油価格の負の相関も低下していくだろう。加えて、米国の経常収支の著しい改善、および今後10年間のエネルギー価格の上昇による他の石油輸入国の赤字増大は、為替相場全体にも大きな影響を与えるだろう。このため、世界経済および為替動向を総合的に見ると、米ドルとエネルギー価格の負の相関は、米国の石油収支赤字がピークを迎える今後数年間は続くものの、その後長期的には明らかに低下していくだろう。これは、米ドルの長期見通しにとって極めてポジティブな要素となろう。
(本稿は、UBSインベストメント・リサーチによるレポートを翻訳・編集したものです。)

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