ニューヨークとシカゴの順位は後退
ランキングの変動は、主として外国為替相場の変動に起因しています。前回の2003年レポートと比較しますと、ニューヨークとシカゴが順位を下げていますが、これはドル下落によるところが大きいと言えます。一方で、上海や北京といった中国の都市で経済の好況にもかかわらず物価が比較的低めに維持されているのは、自国通貨である人民元がこれまでのところ上昇圧力をかわしてきているためです。
賃金が最も高いのは、スカンジナビア諸国、スイスおよび米国
西ヨーロッパと北米の都市で14の代表的な職業につく労働者の平均賃金は、1時間あたり18米ドルであるのに対し、東欧ならびにアジアの都市では4〜5米ドルにとどまっています。賃金が最も高いのは、コペンハーゲン、オスロ、チューリッヒ、ジュネーブ、ニューヨーク、ロンドンです。実収入ベースでは、スカンジナビア諸国とドイツの都市が高い税金と社会保障費により順位を下げています。今回大幅上昇を見せたのが欧州の英語圏で、ダブリンとロンドンがはじめて上位10位に入りました。
ビッグマック1個を買うのに35分の労働
賃金は、物価との関係で意義を持ちます。つまり、得た収入で何が買えるのかがポイントとなります。 ビッグマックのように世界中どこでも買えるような商品で比較すると、この賃金と物価の関係がより明確になります。そこで、ビッグマック1個を買うのに必要な労働時間を算出してみたところ、世界平均は35分となりました。しかしながら、都市間の格差は非常に大きいものがあります。ナイロビでは現地の平均実収入ベースで1.5時間の労働を必要とするのに対して、ロサンゼルス、ニューヨーク、シカゴ、マイアミなどの米国の都市では最大でも13分に過ぎません。スイスやスカンジナビア諸国では、総合的な購買力と賃金は高いものの、製造コストが高いため、ビッグマック1個を買うのに15から20分の労働を要します。また、チューリッヒ、ジュネーブ、ダブリン、ロサンゼルス、ルクセンブルグでは、実収入のうち、標準バスケットの物品・サービス購入後の、旅行や贅沢品の購入、貯蓄などの自由裁量支出が高い割合を占めています。
労働時間が最も長い都市はソウル、最も短いのはパリ
アジアの労働者は、1時間あたりの賃金の低さを長時間労働によって一部補っているとも言えます。アジアの都市の年間平均労働時間は世界で最も長く、2,088時間に達しています。週42時間労働として計算しますと、年間平均労働時間1,480時間のパリや1,610時間のベルリンと比べ、アジアの人々は、年間50日間多く働いていることになるからです。
また、UBSの「Prices and Earnings」調査によりこれまでに得られたデータを分析しますと、ヨーロッパ人はこの30年間で労働時間を減少させ、その分を余暇に回してきていることがわかります。他方、アメリカとアジアはむしろ所得の向上に重点をおいているようです。労働収入の水準と余暇時間は、豊かさを決定する大きな要因です。しかし、労働収入がある一定水準に達していないと、余暇時間の増加は豊かさに結びついていません。
アメリカ大陸−物価が最も高いのはニューヨーク、購買力が最も高いのはロサンゼルス
ロサンゼルスで得た1ドル(税金、社会保障費控除後)の収入は、シカゴ、ニューヨーク、マイアミ、トロント、モントリオールのそれよりも高い価値を持っています。ニューヨークはアメリカ大陸のどの都市よりも賃金が高い一方で、生活費も最も高くついています。南米に比べ北米の賃金水準は非常に高いため、北米の労働者は、生活に必要な物品・サービス購入後に、旅行や贅沢品の購入、貯蓄などに、より多額の余剰資金を当てられます。中南米の平均購買力は、北米の3分の1しかありません。
前回の「Prices and Earnings」と比較し、順位を一番大きく上げたのは、サンパウロ、リオ・デ・ジャネイロ、サンティアゴ・デ・チリでした。経済成長と通貨の上昇により、北米との差は、物価および賃金ともに縮小しています。しかしながら、物価の上昇が賃金の増加を上回っているため、購買力の南北格差がすぐに解消することはないと思われます。
アジア−物価と賃金の大きなギャップ
アジアほど、物価レベルの都市間格差が大きい地域はありません。東京は世界で5番目に物価の高い都市に挙げられますが、その一方でデリー、ムンバイ、クアラルンプールなど、その対極にある都市もまたアジアにあります。シンガポールと台北は、環太平洋地域のシドニーやオークランドとともに、物価と賃金とも中位に位置します。アジアで最も賃金が高いのは東京ですが、前回調査に比べ、7位順位を下げています。これは、日本円のユーロに対する下落と、ここにきて漸く終結したデフレ傾向に起因しています。アジアで最高水準の購買力を享受しているのは、東京、台北、ソウルの労働者ですが、シドニーやオークランドもトップ10入りしました。
欧州−EU域内市場とユーロによる価格収斂
同種の物品やサービスにおける価格差の縮小は、市場統合の進行度を見るうえで重要な指標となります。UBS「Prices and Earnings」の2006年調査では、EU域内の価格収斂がかなり進んでいることが確認されました。これには、市場統合と統一通貨ユーロの導入が大きく貢献しています。当調査で調査対象としているEU
15ヵ国の都市間の物価のばらつきは、1985年以来3分の1に縮小しています。とはいえ、物価水準の調整は順調に進んできたわけではなく、価格が平衡するまでの道のりは度重なる困難を伴っています。市場統合はユーロ圏において最も進んでいます。一方、最近新たに10ヵ国が加盟したEU全体では、物価のばらつきは再び広がっています。
スイス−依然として高い購買力を維持
購買力の比較においては、スイスのチューリッヒとジュネーブが首位を守っています。これは、公共部門の賃金水準を強く反映しています。教師やバスの運転手などの公共部門の賃金が、民間部門の同種の職業に比べ、新興諸国においては低く抑えられているのに対して、スイス(並びにスカンジナビア諸国)では、比較的高くなっています。物価の面でも、スイスは他国をリードしています。特に食品の価格は高く、同国の「物価が高い国」というイメージが裏付けられた形となりました。唯一東京だけが、わずかではありますがスイスの上を行っています。ジュネーブとチューリッヒとの比較では、物品についての価格差はそれほどありませんが、サービスについてはジュネーブの方が10%程低くなっています。
「Prices and Earnings」調査レポート(英文)は、www.ubs.com/researchからダウンロード頂けます。
「Prices and Earnings」はUBSが3年に1度発表している調査であり、世界の全大陸71都市で集積された35,000項目以上のデータに基づき、物品・サービスの価格、賃金、賃金控除額、労働時間、そしてその結果としての購買力について、グローバルに分析した結果を発表しています。また、蓄積された歴史的データに基づき、欧州における価格収斂の長期トレンドや労働収入と余暇時間に対する地域的な価値観の相違についての検証も行っています。